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第4節:暗躍


 不可思議な気配を持つ男を病室まで送り届ける第二部隊の二人を、青髪青目の美青年がじっと見つめていた。


 彼らは、青年の存在に気付かない。

 気付けないよう、青年は完璧に気配を消していた。


 青髪の彼は、妖魔が高位化する兆候を察してこの場に赴いていた。

 どうやら、高位化した妖魔は特異な能力を持っているようだ。


 面白い、と彼は思う。


 不可思議な気配を持つ妖魔を、同じ不可思議な気配を持つ男にぶつけて、あの妖魔が生き残れば、仲間に引き入れても良いかも知れない。

 彼は微かに笑い、仕込みの為に動く事にする。


 彼は、一度病院の側を離れて、すぐに戻った。

 そして視線の先に、病院から出てきた金髪の男とスキンヘッドの男を見て。


 どちらでも良かったが、彼はスキンヘッドの男の『認識』に干渉した。


※※※


 リーガルが不意に顔を上げたのを見て、カーズも目を上げる。


「どうした?」

「……なんか、あっちの方が騒がしくねぇか?」


 そう言われてカーズが耳を澄ますと、微かに喧騒が聞こえた。

 今の時間帯は、深夜だ。


「妖魔か!」

「多分な」


 カーズが駆け出そうとする前に、頭上から病室の窓が開いた音が聞こえた。

 顔を向けると厳しい表情のブレイヴがベランダに出て、リーガルの示した方向に目を向けている。


「どうした!?」


 声を掛けると、ブレイヴは眼下のカーズを見下ろして、静かに言った。


「……装殻反応がある。交戦している」

「俺達が向かう! 大人しくしていろ!」


 ブレイヴは静かに首を横に振ると、左手で右手を撫でる仕草をした。


「……纏身」


 彼は黒い鎧を纏うと、病人とは思えない俊敏な動きでベランダを蹴ってカーズ達の頭上を越え、遥か先に着地して駆け出した。


「ッあの馬鹿が!」


 カーズは、ブレイヴを追って駆け出した。


「あん? ……っておい、どうした!?」


 何故かこの状況でぼんやりしていたリーガルが慌てて追って来たが、構っている暇はなかった。

 しかし全力で走っても、ブレイヴの速度はカーズ達が追い付けるようなものではない。


「……病人とは思えねぇな。ありゃ鎧の力か?」

「かもな」

 

 カーズは言葉を濁したが、今にも倒れそうだったとは思えない動きなのは、間違いなく鎧の力だろう。

 だが、中身である体の方が、事が終わった後に無事で済むのかどうか、カーズには判断がつかない。


 喧噪の場にいた第二部隊にカーズが合流すると、カーズは周辺を見回した。


「ハヤミはどこだ!?」


 現在の状況で、奴が休んでいる筈が無い、という確信を持ってカーズが怒鳴ると、ハヤミが静かだが素早く近付いて来た。


「カーズの旦那、お呼びで?」

「『珠玉』は!?」

「まだまだですねェ、後、三日は掛かるでしょうねェ」


 ハヤミは難しい顔をしながらも冷静な理由は、続く彼の言葉ですぐに知れた。


「あの黒い鎧の男……ありゃ何者なんですかねェ」


 カーズ自身も、ハヤミに言われるまでもなく気付いていた。

 妖魔が出ているのに、第二部隊の動きが止まっている。


 副隊長は、カーズ自身よりも古くから居る人間で、個人の動きはともかく指揮に関しては問題のない人材だった。

 部隊が動きを止める理由は、普通は二つしか考えられない。


 妖魔が逃げたか、倒したか、だ。


 しかし、今はもう一つ別の理由だった。


「高位妖魔相手に、妖魔の使役もなしに一人で戦える奴なんてェ存在を、あたしゃ見たことがありやせんねェ」


 視界の先で、時折空中に光の軌跡を引きながら、黒い鎧の男が舞っていた。

 右手に、鋭い牙のような、腕と一体化した剣を携えて。


 カーズが第二部隊の前線を割ると、そこに蜘蛛の足に似た、鋭い爪を持つ四本腕を背中から生やした宿主が、立っていた。

 背中は甲羅のように硬そうな黒の外皮に覆われ、腕も同じ色合いをしている。


 それは、今、妖魔とやり合っているブレイヴの鎧に酷似した色合いだった。

 ブレイヴに向かって四本の蜘蛛の足を振るい、それをブレイヴが剣で受け、腕でいなして火花が散る。


「……既に高位化して、宿主を喰らって成り代わったか?」

「違いやさァ。あの腕は高位妖魔のモンに見えやすがねェ。体は宿主のまんま、でさァ」

「どういう事だ?」

「どうにも、普通の妖魔とは違うみたいでねェ。ほら」


 ハヤミが指を指す先には、甲羅のような黒い外皮。

 それが、ノロノロとではあるが宿主の体を覆うように蠢き、徐々に宿主の体を呑み込んでいるようだった。


 鎧が肥大化している。

 直感的にそう感じたカーズは、妖魔がブレイヴと同じ状態になろうとしているように思えた。


 完全に鎧化すれば、ブレイヴですら不利になるかも知れない。


「クソ野郎ども! ポッと出に任せっきりで何してやがる!」


 カーズが怒鳴ると、呆然と人外の戦闘を見つめていた第二部隊が、ハッと我に返った。


「幾ら命が大事でも、突っ立ってボサッとしてろと誰が言った! あの黒い鎧の男を援護しろ! 動け!」


 カーズの叱咤からの矢継ぎ早の指示で、ようやく第二部隊が動き始める。

 第二部隊とブレイヴは、徐々に力を増していく妖魔相手に善戦した。


 カーズ達とブレイヴは、言葉も交わさないまま即興の連携を取りつつ妖魔を押し始めた。


「第1小隊、第3小隊と代われ! 第4小隊は後退して第6小隊と弾幕を……!」


 カーズの指示で有機的に動く第二部隊だったが、第1小隊が前に出た途端横薙ぎに振るわれた蜘蛛の足によって、二人が腹を薙がれた。


 傷は浅いと見えたが、先に喰らった第1小隊の男が崩れ落ちる。

 後に腹を裂かれた方が、襟首を掴んで彼を後ろに放り出した。


「倒れてんじゃねぇよ、アホが!」

「ハーカスッ!」


 悪態をついた二人目の男の名をカーズが呼ぶと、ハーカスは、さらに攻勢を加えようとした蜘蛛の足に剣を捨てて抱きついた。


「お前ら、さっさとアギー連れて下がれってんだよ!」


 それが、先に崩れ落ちたアギーを庇ったハーカスの最後の言葉だった。

 別の蜘蛛の足がハーカスの体に突き立ち、彼を瞬時にミイラに変えてしまう。


「ッーーーブレイヴ!」


 叫びそうになる気持ちを抑えて、カーズが呼び掛けた相手は既に空中に跳ねていた。

 ハーカスが捨て身で作った隙を突いて蜘蛛の足の攻勢を逃れた第1小隊が、後ろに下がるよりも早く。


 ブレイヴは、自分に向けられていた足を一本断ち落とす。


 だが、妖魔はハーカスの力を吸い取ってさらに速度を増していた。

 今までの速度に慣れていたブレイヴが腕の届く速度を見誤り、右腕に蜘蛛の足が突き立つ。


「訛り野郎!」


 リーガルが叫んで飛び出し、蜘蛛の足に剣を叩きつけるが、弾かれた。

 その間にもブレイヴの腕が外殻ごと、見る見る内に萎んでいく。


「リーガル、蹴り折れ!」


 追従したカーズはリーガルと逆側へ回り込み、ブレイヴが握り締めて引き抜こうとしている蜘蛛の腕が真っ直ぐに伸びているのを見て、リーガルに怒鳴る。


「オラァ!」


 リーガルが、カーズの意図を正確に汲み取って前腕の中程を蹴るのに合わせて、カーズは蜘蛛の足の関節部分に、踏み付けるような蹴り落としを見舞った。

 鈍く重い音を立てて、妖魔の足関節がへし折れる。


「グォォォォ……!」


 短時間に二本の足を失った妖魔が痛みに呻くが、その目は白目を剥いており、言葉は発しない。

 足を奪ってブレイヴを助けた代わりに、もう妖魔の顔以外の部分が全て黒い外皮に覆われてしまった。


「銃撃部隊、一斉射! ……無事か、ブレイヴ!」


 力の抜けた蜘蛛の爪を引き抜いて後ろに下がったブレイヴに、剣を構えて妖魔を見据えたままのカーズが呼び掛けると。


「生きてはいる……が」


 第二部隊全員が足の範囲から逃れ、銃を持つ連中が一気に銃撃を加える轟音の中。

 一瞬視線を向けたブレイヴの鎧が消えているのを、カーズは見た。


「カーズ……こっちへ来い」

「第二部隊、そのまま抑えろ! 動き出したら全員、相互に庇い合いながら後退! 無理はするな!」


 指示を出した後にブレイヴの元へ赴くと、ブレイヴはミイラ化した腕から逆の腕で指輪型装具を剥ぎ取り、カーズに差し出した。


「武装は奪われていない……だが、右腕がこれでは戦えん」

「……」


 ブレイヴは沈黙するカーズに、真剣な視線を向けて指で指輪を摘んだままさらに腕を伸ばす。


「カーズ。ーーーこれは、お前が使え」

 


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本編小説はこちらです。(作:遥 彼方 様)
N9920dy『治安維持警備隊第二部隊~ナナガ国の嫌われ部隊の実情~』
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