《01-7》
巨大ムカデの次は……
††
白い大きな顔があった。
少なくとも僕の顔の倍以上あって、真っ白で、ちょっと縞みたいな模様が入ってる。頭の上を黒い模様が奔ってて、そこに白い耳がツンと尖ってる。ちょっと突き出た口元は、大きく膨らみがあって鼻があって、そんで髭が横に生えてた。
うん、この顔見たことがある。猫がちょっと近いかな~、だけどそんな可愛らしいもんじゃない大きさだ。
動物園とかなら柵の中だからどうって事ないけど、ここは大自然のど真ん中。僕は心臓がいきなり破裂しそうなほどに高鳴って、さらに過呼吸気味にゼイゼイと荒い息を吐き始める。
《極度の緊張による心拍数増大。》
ネクス、それいいから、いまはそういう時だから。てかこれこそ緊急事態だろうよ、なんでさっきみたいにさくさくオートパイロットを起動しない!
だって目の前に巨大なトラがいるんだよ!普通に当たり前に怖いんだからぁ!
あまりの恐ろしさに、僕は心神喪失寸前ですが。
身体がブルブルと震えてくる。脚がガクガクしてて、声も出せないし身体を動かす事もできない。
だいたいなんでトラが居るんだよ!
ここって日本じゃないのかよ、それとも2100年代には森が沢山あって、トラが放たれているってのかぁあ!
《そういう記録はありません。》
「冷静にいうなぁぁぁ!」
あくまでも冷静なロボットのような対応のネクスに、僕はつい怒鳴ってしまった。
ヤバイ、刺激したりしたら襲いかかられちゃうかも!相手は見たこともないほど巨大な白トラだ。僕とトラの距離は1メートルもない。もしトラが動いたりしたら、あっさり食いつかれて、一発で僕の命なんて断ち切られちゃう。
《対象に敵対行動の意思はありません》
そんなわけ無いだろ、凶暴そうなトラだぞ!
「グルルルルルッ」
「ほらほらほらぁ、喉ならしてるしぃ!!!」
「お前、誰と話してる?」
ガクブルしてたら、なんか聞こえた。
不意に言葉が聞こえてきた。人だ、こんな森の中に人がいたんだ。僕は泣き出しそうになって、できる限り顔を動かさない様にして、いわば視線だけで周囲を見回したけど、誰も居ない。真後ろにいるのか?
あれ……まさか今度こそ、幽霊?もう幽霊でもいい、この状況をどうにかして欲しい、巨大ドラとにらめっこなんてしたくないっ。
ひい、後ろを向いた途端ガブッとか来るんじゃないか?
「……ネクス、今の誰、キミなのかい?」
《否定》
おいっ!それだけかよ。ちょっとはなんか教えろよ。
《肉声ではありません》
肉声じゃないって、おいいいい!
「さても誰と話しているのか、面妖な。ほんに不思議な子だな。」
また声が響いた。まさかトラが話してるの?
そんなバカなとトラを見る。うわぁ、怖い。
「グルルルルルッ」
ひぇぇ、喉鳴らさないで、怖いよぉ……
「お前、見かけない顔だが、いったいここで何してる。」
ふと視線を上げると、白いトラの頭の上に、これまた白い鳥が居た。
鳥?
真っ白い15センチほどの小鳥。というか、なんで鳥がトラの頭にのってるのぉ!
「見たところ"倭人"では無さそうだな、この辺りのものではないな。お前は何者だ?」
間違いない、この白い小鳥から声がしてくる。2100年代って、人間が滅んで鳥が支配する世界になったのかぁ!
《否定》
簡潔なご回答ありがとう。じゃあこの状況はいったい何なんだ!
《回答不能》
おいぃぃぃ、量子電脳が泣くぞおぉ!
「我は精霊族のメトゥ・シという、お前、名前があるなら名乗るが良い。」
「は、精霊族?」
《ファンタジー小説などに出てくる架空の存在》
いやそれは知ってるって、ネクス。
僕だって小説やラノベは読んでたからね。でも目の前に居るのは架空の存在じゃなくて、本物だよ。いやほんとかどうかはわからないか、見た目は鳥だし。
《回答不能》
あーもー頼りにならないなっ!
「お主の名は?」
「ひっ、わ、えと、ぼ、僕は、レイ、如月零だ。」
「ほう、レイというか。うむ、なるほど、うむ、そうか、そうか……」
なんかコクコクと首を上下に振って、眼をつぶっちゃったよ。どうしたんだろ。
「さて、我が姿を見せたのはな、お前から不可解なオーラが漂っていての、それで興味を持ったわけだ。先ほどの"センチネルビート"を倒した時も、不思議な術を使っておったのう。」
「オーラ?」
《オーラとは闘気とも呼ばれる、生体が発する霊子エネルギーです。メトゥ・シと名乗る"擬似生命体"は、マスターの体内のナノマシンの活動エネルギーを、オーラと見誤っていると推測》
またわけのわからないことを言い出したよ、この量子電脳は……
《オートパイロット時に、マスターの身体を動かした時に発せられたエネルギーです。》
理解不能だけどもう良いや、うん、なるほどね、ナノマシンもエネルギーを発するんだ。それと気になるワードなんだけど、"霊子エネルギー"ってなにさ?
《人間を稼働させる意志、理力、闘志、などと呼ばれるスピリチュアルエナジーの一つです。》
理力、フォースってやつだね。僕もス●ー・ウォーズは見たから知ってるよ。それと"倭人"とか言ってたけど。
《古代日本人の呼称の一つ、しかしながらメトゥ・シの云う《倭人》は、恐らく異なる生命体の呼称と推測されます。》
そういや学校で魏志倭人伝とか倭国とか習ったな。えっとそれじゃここって古代なんですか?
僕は治療で寝てる間に古代にタイムスリップしちゃったの?だから鳥が話してるの?
《否定》
違うか……そしたらさ、ここってもしかして、ラノベや漫画とかに出てくる異世界かぁ!僕の治療に失敗して、僕は死んじゃって、そんでそんで異世界トリップってやつ?
精霊族なんてまさにそんな感じじゃない!
《否定》
あ、そですか。それじゃここ何処よ!
††
まだ更新します、つぎで本日最後
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