《07-3》
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アリサはバッグを肩に背負っている。そこにはヴェンテゴの牙や鱗が入っている。
メトゥ・シとビャクが去った後、少しでもとアリサがヴェンテゴから採ってきたんだ。僕ももちろん手伝ったよ。アリサがアルラムの身体が心配だからって、焦っていたからね。
それでも3分の1も取れなかった。ビャクがいれば異空間収納が使えたから、もっと採れたんだけど、アリサもガリオンも使えないし、もちろん僕も使えないから仕方ない。
冒険者組合へ向かって歩いてると
「アリサーっ」
アリサを呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと、町の子供みたいなんだけど、ちょっと薄汚れた格好をした12歳位の少女と少年が、小走りに走ってくる。
「ウェンディ、シャイン。」
目の前までやってきた二人に、アリサはほほえみかけた。でも二人はちょっと泣きそうな、なんか不安そうな顔をしている。
はぁはぁと息を荒げ、なんか辛そうな感じだ。
「帰ってきたんだね。」
少女──ウェンディが言うと、アリサがコクリとうなずいて頭を撫でた。
「よかった、アリサは無事だったんだ?」
少年──シャインが言う。その言葉にアリサは少し怪訝な顔をした。
「どういう意味?」
「だって、アリサの狩猟団が全滅したって、噂になってるんだ。みんなヴェンテゴに喰われちゃって、それでそれで、生き残ったのはガリオンだけで、ガリオンも足を喰われちゃったって……」
へ?なにそれもう話しが伝わってるの?でもなんかネジ曲がってるなぁ。
「俺、さっき魔導義肢工房でガリオンみてさ、噂が本当だって、アリサは喰われちゃったんだって……だから、良かった。」
わぁぁぁぁぁん、と大声で泣きながら二人がアリサに抱きついた。そっか二人はアリサが死んだと思ってたのか。それが生きていたから、嬉し泣きかな。
「大丈夫よ、私は生きてるから、ピンピンしてるからね。」
アリサは二人の頭を撫でながら笑っている。
二人はしばらく泣いていたが、満足して泣き止むと、不意に僕を見た。
「アリサ、この子は?」
ウェンディが僕を指差して、小声で尋ねた。それにビャクを見てなんか目をうるうるさせてる。シャインはなんか頬を赤らめて、ちょっと固まってる。
「この子はレイ、白トラはビャク。私達を助けてくれた、命の恩人よ。」
「「命の恩人?」」
アリサの言葉に目を丸くする二人。
「こんにちは、レイです。」「にゃぁっ」
僕はちゃんと頭を下げて、笑顔で挨拶した。挨拶は大事だ。
「レイ、この子達はウェンディとシャイン。なんていうか、私の兄妹みたいな奴らだ。仲良くしてやってくれ。」
「ん……解った。」
みたいな奴ら、にちょっと引っかかったけど、詰まりアリサの大事な人達なんだろう。僕はコクリと頷いて笑顔で答えた。
「あたしウェンディ、よろしくね。」
「お、お、おお、、おおお、俺、シャイン、えとあのつまらない奴だけど、あのよろしくおねがいぃぃ、します。」
なんかシャインが顔を真赤にして言葉を支えてるのは何故なんだろう。なんかやな予感がするのは気のせいかな。
しかし今日の朝街に戻ってきたばかりなのに、もう噂が広まっているとか、早いなぁ。何故なんだろ。
「此処よ。」
しばらく歩いて到着したのは、押し開きのウェスタンドアの居酒屋のような場所だ。看板はでているけど、生憎僕には読めなかった。僕にとって初めて見るこの世界の文字だ。
「悪いけどビャクは外で待たせてくれる?」
「ビャク、ダメ?」
「一応ね。なんだかんだ言ってその子とんでもないレベルだから、下手に見られるとまずいから、それにもともと中はペット禁止だから。」
レベルの事はともかく、ペット禁止なのね。
アリサがドアを押して中に入り、僕も付いて入った。中はそれなりに広くて、幾つかのテーブルが置かれてて、武装した男女が昼間から酒を飲んで騒いでいる。
なるほど、飲食できる場所だからペット禁止なのね。
「おー、アリサじゃねぇか。」
どこかから声がかかった。声の方を見ればスキンヘッドの体格の良い男がにたにたと笑っている。多分ガリオン並みに体格がよいかもしれない。でもスキンヘッドにケモミミは似合わない。
「アリサ、どうした、今日は一人かよ。」
「お仲間はどうしたんだ~。」
「あれぇ、おかしいな。お前等ヴェンテゴの討伐に行ったんじゃねーのか、"お仲間"とよ。」
「一人留守番か?ギャハハハッ」
「ガリオンはどうしたぁ?」
「アンヨは上手ってかぁ!」
「「「ギャハハハハハハ」」」
男の仲間らしい男達がはしゃぎ立てた。昼間なのに酔っているのかな。彼等も冒険者なのかな。
でも、こいつらアリサの仲間たちが殺されたこと、知ってるのかな。ガリオンが足を失った事も知った上であんなこと言ってるのかな。
アリサが眉を顰め、男たちを睨みつける。手に持っているマシンガンみたいな武器に魔力が注がれるのが解った。
途端に男たちが黙りこみ、手に手に武器を持ち始める。だけどどこかこいつら余裕が有る、口元には笑みが浮かんでいる。
ここでやるなら、手伝うべきかなぁ。
「アリサさんっ。」
奥から声がした。見るとローブ姿の女性が、心配そうな顔をしてこちらを見ていた。
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