《03-4》
倭人アリサの機械弩弓が厄災の黒蜘蛛に向けて火を噴く。
††
振り返るとそこには鉄でできた異形の丸太みたいな物を構えたアリサが、しっかりと腰だめしている。
「ば、まてぇぇっ!」
「ばかアリサーっ」
途端に慌てたアルラムは重厚で大きな盾を構え、ミルルを庇って身を屈めた。
「おらぁぁぁぁっ逝きさらせぇっ!」
女にしては随分と威勢のいい声が響くと、アリサの持つ機械弩弓が派手な発射音を響かせ、鉄の固まりが連続して厄災の黒蜘蛛に向けて飛び出していく。
「JYAAAAAAHHHHHHH!!」
ヤウシケブが悲鳴を上げ、体長8メートルは有る巨体が後足で起き上がった。
何だコイツの武器!僕は眼を見張った。
アリサの機械弩弓からは、ほんとに大口径マシンガンかと思われるほど、連続して弾丸が飛び出てくる。
今までにも何度か機械弩弓を見たことあるけど、こんな連続射撃なんて見たことも無いぞ。
《使われている弾丸は、仮帽付徹甲弾です》
なにそれ。
《Armor Piercing Ballistic Capped。22世紀ではすでに廃れてしまった対戦車対人兵器の一つ、敵戦車の装甲を破壊し、搭乗員の殺傷目的で作られた弾頭です。》
戦車の装甲を破壊とか凄くない?そんな破壊力のある弾丸を連続発射とか可能なの?
《マスター、あの武器は魔導回路によって、動いています。連続射撃が可能なのは、使い手の魔力がそれだけ高い事を示しています。》
そういうことか。確かあの女の人の魔力って3,000近く有ったしね。なるほどね。
たしかにあれはかなり効いてるのだろうけど、ヤウシケブの身体を次々に貫いて蒼い体液が吹き出してる。でもね、アイツはあの程度じゃ死なないよ。
アイツが厄災の黒蜘蛛なんて呼ばれてるのは、意味があるんだ。
案の定ヤウシケブは弾丸を体中に受けて、蒼い体液を振りまきながら、それでも尚残った前足を振り上げ、威嚇した。
8つの黒くテカる眼がアリサを見つめ、巨大な口が開き今にも毒牙が襲ってきそうだ。
「威嚇してんじゃねぇぇぇ!もういっちょ弾丸を喰らぇ!」
今にも覆い被さってきそうな厄災の黒蜘蛛にも怯まず、アリサは機械弩弓のトリガーを引き続けた。
ドドッドドドッドドドドドッ!!
射出口が火を噴き続け、連続発射された弾丸が厄災の黒蜘蛛の顔に、胸に、そして腹に立て続けに食い込んでいき、ついに腹が避けて蒼い体液が大量に噴き出した。
すげぇな。あれと戦えとか言われたら、ちょっと躊躇するぞ。さっきのドリル機槍にしろレーザーサーベルにしろ、どれもこれもすげえ戦力だ。あれに闘いを挑むの普通に危険だな。普通にLV.80程度のモンスターなら、これで終わりだろう。
だけどヤウシケブはあの程度じゃ、まだ死なないんだな。
ダメージを受けているにも関わらず、ヤウシケブはアリサに向かって素早い移動を開始した。
「っちぃぃ!こいつ、まだ動けるのかっ!」
アリサが舌打ちした。ドワーフとミルルも驚き顔を上げているが、慌てて動き出す。
ヤウシケブのターゲットがアリサに移ったのだ。
蒼い体液を垂らしながら、腹の先や、背に生えた複数の角から蜘蛛糸を吐き出し、雪積もる木々に巻きつけ、あの巨体が空中を踊るように靭やかに獲物に向かって這いよっていった。
「糞しぶてぇぇっ!」
アリサが喚きごそごそと手を動かしている。どうやら弾が尽きたらしい。急ぎ次弾のカートリッジを探してるみたいだ。
でもありゃ間に合わないな~。ヤウシケブはアリサを狙っている。張り巡らした糸の上を驚く程の速度で動き、アリサに襲い掛かろうとしている。
「うわっ!」
さらにアリサに向かって糸が吐き出され、身体にそして機械弩弓にも粘着性の糸が絡みつき、アリサの身体を絡めとっていった。
「くそ、くそっ」
体中に糸が絡まり、動くにも動けず足掻くアリサに、巨大な口が開き、鋭く凶暴な鋭牙が迫った。
「アリサっ!」
「くそっ間に合わないっ!」
ドワーフも長剣の女も必死に走るのだが、雪上ではヤウシケブほどの速度で動けない。まあ無理だよな、これで機械弩弓の女も終わりか。
「おめえの相手は俺だぁぁぁ!」
あ、横から獣耳の男が叫びながら飛び出してきた。そっかこいつら4人だったな。
《名前: ポロ・オーガスト
種族: 倭人 年齢: 25 性別: 男
職業: 一級機戦棍操士 LV.84
身長: 183センチ 体重: 81キロ
生命力: 8,213 魔力: 1,611》
ポロか、棍棒みたいなの持っているけど、この武器は形状からして戦棍みたいだ。でもでかくね?
その戦棍は異様に大きかった。恐らく人の背丈ほどもあるだろう、戦棍を振りかぶって、人の頭が4つ連なったような柄頭で張り巡らされた蜘蛛糸ごと、ヤウシケブの頭部を殴り飛ばした。
ボウンッ
「JYAAAHHHH!!!」
うおっ!爆発したぞ。戦棍が当たった途端にヤウシケブの頭のあたりが爆炎に包まれ、巨体が横に転がっていく。
衝撃を受けると爆発する戦棍か。どんな魔法が仕掛けてあるのかな。ほんとこいつらの武器は面白い。
メイスの爆発によって蜘蛛糸が燃え上がり、樹木に張り巡らされた糸も焔に包まれ燃え落ちていった。同じくアリサを包んだ糸も燃えていき、彼女は自由を取り戻したようだ。
身体に移った焔はご愛嬌か。そこら中に雪があるから、すぐ消えるだろう。
「どうよどうよ、俺の衝撃破壊棍、いい味だろうがぁ!燃える味だぜぇぇぇ!」
ポロは自慢気に衝撃破壊棍を頭上でくるくると振り回し、ビシッと構えをとって恰好を付けた。黒い毛に覆われた獣耳がピクピクとして、得意げだ。
なんか中国の猿の活劇を見てるみたいだ。
でも自分では決まったつもりなのだろうか、でも今は戦闘の最中なのに何してんだ。あいつ馬鹿だろ。
「自慢してんじゃねーってのぉ!」
僕が呆れて見てると、ドワーフのアルラムが怒鳴りつける。彼は彼で頭を叩かれてフラつき、バランスを崩して横倒しになったヤウシケブに向かってドリル機槍を向け突っ込んでいく。
††
昨日から2話、3話と4回づつ更新させていただきした。
ちょっと体力が続かないっす。少し横になって、元気だったら更新します。(汗)
遥かな男の娘をお読み頂きありがとうございます。
作者のテンションアップのためにも、どうぞよろしくご声援のほどお願い致します。
m(_ _)m