《01-2》
1話の2つ目《01-2》です。
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母さん、僕は自分が今いる場所がわかりません。暗闇の中で目が覚めて、地震が起きて、怖いです。母さん、貴女は何処に居るんですか。
地震が収まり、暗闇にだいぶ目が慣れてきたこともあり、僕は状況を把握しようとした。
さっき頭の中で声が聞こえた気がするけど、耳鳴りかな?
まいいや、とりあえず僕は全身ずぶ濡れみたいだ。それに体中にコードが刺さってる。いったいなんのコードなのかは解らないけど、腕やら頭やら身体やら、何本ものコードが刺さっていた。よくわからないけど、気味が悪いので、とりあえず外していく。次に手や足が血だらけだ。地面に落ちていたガラスの破片で切ったみたいだ。
それに下着も付けていない、素裸らしい。だから簡単にガラスで切ったみたい。
ここはどこなんだろう。それになんで誰も居ないんだろう。まさかさっきの地震、まさかとうとう来たの、大地震がきたのかな?
イテッ……
手を動かしたらまた割れたガラスが刺さった。
まあいいや、考えるのは後だ。こんなところにいたら危ない。また揺り返しが来て、建物が崩壊することだって有るんだ。
地震の時はともかく外にでるんだ。
僕は立ち上がろうとした。けれど手にも脚にも力が入らないことに気がついた。
身体を起こそうにも、腕がブルブルと震えて、脚も同様で力が入らない。
なんかこれって筋肉が反応してないというか、力が込められない感じ?よく骨折とかして長いこと寝たきりで筋肉を使わないと、こんな感じになるとか聞いたことあるな。
ふ~む、困った。
ジュルッズズッ
何っ!今の音なんなのっ。
ヌチャァ……
うわあぁぁぁ、なんか触った、いや違う、なにこれ、気持ち悪い、なんかドロドロしてるのが足にさわ──
じゅぅぅぅぅ……
イテッ痛い、いた、ああああ
ドロっとしたのが触れてるところが痛い、熱い、わぁぁぁっ
なんだかわからないけど、危険だ。僕は夢中でどろりとした何かを振り払って、奔った、というかノタノタ歩いた。筋肉がうまく動いてくれないから、あまり早く動けないけど、でも奔った。
ジュルッズズッズズズズッ
背後から音がしてる、多分追いかけてきてるんだ。足が痛い、筋肉に力が入らない。怖い、怖い、何だよあれ、怖いよ。
僕はもう必死だった。痛くても何でも、逃げないと危ない。あれは絶対危険な存在何だ。這いずろうがなんだろうが逃げないと。
《Complete system wakeup, activate NEXS interface. starting N,M.optimization》
ほえ?な、なんだ?また聞こえたぞ。今度はさっきよりはっきり聞こえた。なんか人の声っぽくなかったけど。
「誰かいるの?おーい?誰か助けて、助けてよぉぉ」
うーん、返事無し。きっと気のせいかな。うん、暗いからお化けがいるとか幽霊がいるとか考えない。
今はそんなことよりも逃げないと、この暗い場所から出ないと。
筋肉がブルブル震える、足がもつれて転げそうになって、手を伸ばしたら硬いものが触れた。壁かな、きっと壁だ。手を壁について支えてみた。だけどこっちもあまり力が入らない。
う~、勘弁してヨ。
いったい僕の身体どうなってんの?全然力が入らないよ。
ん~。というかぁ、僕はどうなったの?
なんかすっごく記憶がぼやけてるんだけど、なんでこんなところに居るの。こんな訳の解らないところ、勘弁してよぉ。
正体不明の奴から逃げてるうちに記憶が戻って来た。
頭の中の靄が晴れる様に、すっきりとしてきた。僕は、そう僕の名前は如月零、そうだ如月零だ。でと、なんでこんな暗闇に?
そうだ、僕は確か……病気だったはず。入院していたはずだ。
「ねぇ、誰か居ないのっ!」
もう一度暗闇に向かって声を出してみた。
反応がない。
かなり後ろの方から、ズズッと何かを引き摺るような音が聞こえてくるだけだ。多分アレとは随分離れたみたいだ。
あの音以外、全然物音がしないし、誰も居ないのかもしれない。頭がはっきりして冷静になってくると、不意に足に痛みが奔った。
さっきアイツにやられたところだ。まるで火傷したみたいに、ヒリヒリズキズキしてる。もしかしたら皮膚が焼け爛れているのかな。痛い、痛いよ。
もしアイツが追いついてきて、またあのドロリとしたのを被ったら、そう考えると背筋に氷柱を突っ込まれた様に、ゾォっとした。
逃げるんだ。後ろから床を引き摺るような音が聞こえる。アイツは僕を狙ってる、いったい何かわからないけど狙って追いかけてきてる。
とにかく壁伝いに逃げるんだ。
しばらく行くと壁が無くなった。曲がり角かなとそちらに身体を向けてみた。するとやっぱり暗い。
「はぁ~~」と嘆息したところで、あるものに気がついた。暗いことは暗いんだけど、その暗闇の中に、よく見ると緑色の小さな灯りが見えている。
「灯だっ…」
なんか地獄に仏のように、僕は灯りに向けて弱々しく足を動かした。
多分近くまで来たところで、その灯りが随分高いところに有るのが解った。少なくとも僕が手を伸ばしても届かない場所だ。といっても僕って背が低いんだよね。
中学になっても身長が150センチくらいしか無いんだ。一応男の子だけど、よく小さい事を誂われたかな。でもいつかは伸びる、そう信じてる。
問題はそれに加えて顔が女の子っぽかったことかな。小さい頃は両親や親戚とかから可愛い可愛いって云われて、買ってもらう服なんかも女の子向けだったり、わりと洒落にならなかった。
それが小学校まで続いてたんだけど、中学校に上がると、イジメってわけじゃな無いけど、よく女の子たちに女子の制服着せられたりして誂われたなぁ。もっと洒落にならないのは、それを見た他クラスの男子から、告白とか、本気で洒落にならないことがあったんだ。ほんとどうしようかと思ったけどね。
男子からの虐めは無かったかな、女子が僕を離さなかったし、何かすると女子の怒りを買うから手だしが出来なかったみたい。
まあ僕の過去なんてどうでもいいか、でもなんか色々思い出してきた。頭がはっきりしてきた感じかな。
僕は寝ていた。水槽に入っていた。理由はなに。
ダメだ、まだそこが思い出せない、仕方ないから今はともかくあの灯りだ。
視線を移すと灯りの先にもう一つ、いや、もっと明かりが灯っている。灯りは一定の間隔を開けて延々と続いている。
「もしかして通路の灯り?」
なんかそんな感じがした。緑の灯りは非常灯かもしれない。するともしかしたら、この緑の灯りを追っていけば、外に出られるのかもしれない。
ベチャッ
え……
ドロッ、ベチャ、ジュゥゥゥゥゥゥ……
「ぎゃぁぁぁぁあ」
熱い、痛い、熱ぃ!!!僕の腕が、アイツだ、アイツが僕の腕に絡みついた。
いつの間に近づいていたんだ。違う、こいつは別の奴だ。
僕はこいつがなにか目の当たりにした。
緑の灯りに照らされ、多少暗闇に慣れてきた僕の目に映ったのは、ドロリとして粘液の塊のような、巨大なアメーバーのようなやつだった。
††