《03-1》
3話 冒険者と暴虐の破竜ヴェンテゴ
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馬車から降りてきた白フードに白マントの連中は、十中八九冒険者だ。この山に生息するモンスター種を狩りに来た、そんなところだが、随分数が多いな。
大概の冒険者は3~5人程で、麓から中腹より下の安全圏が狩場だ。彼等は比較的弱いモンスターを倒し、戦利品を持ち帰る。極稀にもっと上へと、奥へと進む冒険者も居ることは居るが、山の洗礼を受けて命からがら逃げ帰るか、餌になって土に帰るか、殆どが後者かな。
最もこの季節は逃げても無駄だ。雪の季節ではモンスターの方が動きが早いから、餌になるやつが殆どだけどね。だから雪の季節は中腹より下の安全な場所での狩りをお薦めするよ。
僕としても"冒険者"がモンスターの餌になりすぎると、まるで僕が"冒険者"を食ってるような気分になるからなぁ、できれば餌にならずに、無事に逃げ帰って貰いたいところです。
だからといって助ける義理はないけどね。倭人、とはいうけど僕から見れば彼等は獣人だ。人の姿をした獣、動物、そんな感じかな。だから人間に似てるけど、人間じゃない。そんな意識がある。
異世界では標準的な種族なのかもしれないけど、う~ん。
「いいかてめえら、今回の相手は知っての通りヴェンテゴだ。俺たちでも未だに直接狩ったことの無い、破龍だ。」
ん、ガリオンさん、今なんとおっしゃいました?
暴虐の破龍?
冒険者たちから《暴虐の破龍》なんつー二つ名で呼ばれている、アイツ?アイツを狩る気なの?
アイツは普段中腹かそれより上層にいるけど、雪がふると麓まで降りて冒険者を食らったりしてるやつだけど。
てかあいつは冒険者がどんな動きするか知ってるし、なにより味を覚えてるから、結構めんどくさいよ?
「いいか、相手はLV.90にも達しようっていうバケモンだ。少しでも油断すれば俺達とて食い散らかされて終わりだ。」
ガリオンの言葉が一旦途切れ、白フードの連中を見回す。
「だが俺達なら殺れる。」
一転、急に声を大にして、激を飛ばした。
「「「「「「おおっ!!」」」」」
「良いかてめえ等、決して油断するな、そして絶対に、必ず生きて帰るぞ。」
「「「おおおおおおおおっ」」」
疵顔──ガリオンが尻尾をくねらせて激を飛ばすのはなかなか見応えがある。白フードの奴らのマントからも、色々な形の尻尾がクネッたり、ピンとなったり、うん、可愛い……
中には尻尾が見えない奴も居るんだけど、背が低いからきっとドワーフ族かな。
「行くぞ、野郎ども!」
ガリオンが手を上げて合図を送った途端、ガチャっと音がして白マントの1人がフードを跳ね上げた。
フードの下には、茶色い獣毛に覆われた獣耳がある。長い茶色い髪を頭の後ろで束ねてて、ちょっと垂れた前髪から見える顔は、なかなか綺麗に整った可愛らしさすら窺えた。どうやら女の冒険者みたいだ。
アリサはマントをめくり上げて丸太みたいな物を、疵顔に向ける。
《名前: アリサ・グリンドル
種族: 倭人 年齢: 18 性別: 女
職業: 特級機銃操士 LV.86
身長: 171センチ 体重: 72キロ
生命力: 7,155 魔力: 2,991》
LV.86、結構高いな。背も高いけど……
身長が僕より20センチも高いし、なんか細身に見えるのに、体重が随分重くない?やっぱ鍛えてるから筋肉ぎっちりで、無駄な贅肉がないのかな。
機銃操士か、ということは持っている紅い筒みたいなのは機械弩弓とか呼んでる武器?
《マスターの推測は合っています。あの武器は機械弩弓の一種です。》
やっぱね、だと思ったんだ。機械弩弓はマシンガンとか重機関銃みたいな武器で、弾丸を発射するんだ。起動回路は魔力で操っているので、弾丸の発射速度や威力も魔力の強さによって変わってくる、とNEXSが分析してた。
機械と魔法の融合とか、さすが異世界、色々もっと細かいことを知りたくなってくるなぁ。
「ガリオン、野郎ばっかじゃねぇよ、女もいるんだよ。寝ぼけた事いってると、ヴェンテゴの前にあんたをぶっ殺すよ。」
機械弩弓を向けた女──アリサは、疵顔に怒鳴りつけた。
「アリサ、威勢が良くてなによりだ。魔弾の奏者アリサ、おめえには期待してる、頼むぜ。」
疵顔がバチンと片目をつぶり言うと、機械弩弓の女はにぃっと口角を吊り上げ、軽く頷くと機械弩弓を肩に掲げて笑顔を見せた。
魔弾の奏者とか、まるで中二病か!と言いたくなるけど、ほっぺたにタトゥーみたいな模様がはいってて、かなり可愛いなぁ。
「いくぞっ!」
「「「「おぅっ!」」」」
ガリオンの掛け声と共に白いフードの連中が、雪降る山道に入り森の中を行軍していった。
「そっか、あいつらヴェンテゴ狩りにきたのかぁ。そりゃまぁご愁傷様というべきかな。でも……LV.80超えの冒険者が12人か、結構行けるかもねぇ。」
これは面白くなってきた。めったに見れない大捕り物だ。
僕は気付かれない距離を保って、樹から樹へと飛び移り、奴らを追っていった。
何故追うかって?面白そうだからに決まってる。僕は娯楽が欲しいんだよ。
◇ ◇ ◇
彼等は"烈風狩猟団"という冒険者集団らしい。
彼等は予想通り強かった。相手構わず襲ってくるモンスターをあっさりと倒し、白い大地を真っ赤に染めながら進んでいく。殆どのモンスターは団員たちがあっさりと片付けていくが、ガリオンも1匹だけ倒した。ていうかあれは一方的な惨殺だな。
よりによってLV.91の冒険者にLV.35の鋼の甲虫が襲いかかったわけだが、ガリオンの両手斧が赤く輝いたかと思うと、鋼の甲虫の硬い表皮を、一瞬で真っ二つにしちゃった。
鋼の甲虫はやたらと硬いから、ナイフも通らないんだけどね。それをあっさり真っ二つとか、いくらレベルが離れているとはいえ、ガリオンの膂力も凄いけど、やっぱり赤く光った両手斧のせいかな。
斬る時赤く光って、何かの力を放射してた。NEXSの聞くまでもなく、あれは魔力だと解る。ここからは推測だけど、あの両手斧にも魔晶石が組み込まれていると思う。
別にガリオンの武器だけじゃない、他の連中の武器も似たりよったりだ。刀身が輝く剣や、鉄球が燃え上がり、繋がった鎖がどこまでも伸びていきモンスターを破壊し燃え上がらせるモーニングスター。
全員魔晶石を組み込んだ武器を持っている。魔導武装とかいうらしいけど、凄まじい破壊力だな。普段目にしている冒険者とはレベルも上だけど、装備している武器もランクが上みたいだ。
特にあのアリサという女の子が持っていた武器、機械弩弓の威力は今までに見たこともないほど強烈だ。弱いモンスターなら1発か2発、多少レベルが高くても、数発も撃てば倒してしまう。さすがにLV.80を超えている冒険者が持つ武器、魔力でかなりの強化がされているみたいだ。
彼等は襲ってくるモンスターを、片っ端から蹴散らし、徐々に山の中腹まで入ってきた。この辺りまで来るとモンスターのレベルも高くなるし、普通の冒険者では餌になる方が多い。
でも彼等は当初から此処を目指していたようだ。ヴェンテゴが普段生息する位置を知っているみたいだな。
でもアイツは用心深いから、滅多にお目にかからないんだよね。下手に殺気を放っていると、まるで出てこない。特にビャクといると全く出てこないし、見つけてもあっという間にどっかに消えちゃうんだ。
でかい図体して素早いからちょっとイラッとする。
モンスターでも高レベルになると、割りと知能が高くなるのか、無闇矢鱈と突っ走らなくなるみたい。
ある意味狩る側と狩られる側、知能勝負ってのもあるけど、さてさてどっちが狩られる側なのかな。
††
鼻水止まりません(`;ω;´)
頭痛は収まって着てるけど、やっぱちょっと痛いです。
あと3回更新予定ですが、途中でダウンするかも
皆様からの沢山の応援があると、頑張れるかも~(笑)
よろしくお願いいたします。