《02-8》
山に冒険者がやってきた
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山にやってきた冒険者ガリオン。彼は"倭人"だ。
動物のような可愛らしい耳と尻尾をもち、それでいて人の様な容姿。それが"倭人"の特徴だ。
この山に来る冒険者は大概が"倭人"か、背が低くてズングリした"ドワーフ族"のどちらかだ。稀に銀色の髪を持って耳が横に尖っている"エルフ族"が来ることもあるけど、それほど多くはない。
"倭人"や"ドワーフ族"は独自の言語で会話している。初めて聞いた時はわけがわからなかったけど、ネクスが解析してくれた。今じゃ翻訳してくれなくても、ある程度まで理解出来るようになった。
僕にとってネクスは、素晴らしく有能なサポーターだ。感謝。でもまだ会話は出来ない、ってか話したことはないからね。
冒険者はこの山によくやってくる。雪の降る季節となっても、モンスター種が徘徊しているからなのか、定期的にやってきて、山の麓で低レベルのモンスターを狩って帰っていく。
多分ガリオンもそうなのだろう、と思っていた。
ガリオンを観察していると、彼は少し黒い鼻頭に舞い降りた雪を指でなぞり、頭の上に降り積もる雪を体を震わせて落とした。その仕草がまるで動物のようで、可愛らしすぎる、でも顔が厳ついからちょっと笑ってしまう。
この数年でネクスは"倭人"に関して、かなりデータを集めたみたいだ。特に冒険者に関して収集されたデータは、割りと面白い。少なくとも彼等は人間よりも身体能力が優れてて、変わった武器と魔法を使う。
とはいっても彼等は魔法で獲物を狩ることは極々稀で、主に魔法の使い道は"魔導武装"とかいう武器の起動や操作に有るようだ。
それはともかく、ガリオンは黒い巨馬ブリオンに近づいて行くと、彼の背丈──およそ2メートル──よりも大きな巨馬を見上げて手を差し伸べ、首のあたりを擦ってやっている。巨馬が「ブルルッ」と嘶いて大きな顔を彼に摺り寄せた。
なるほど馬に好かれているようだ。動物同士というべきなのか。まるで人に語りかけるように馬と何か話している。獣のような耳や尻尾を持っているのだし、馬の言葉がわかるんだろうか。互いに意思が通じているのかもしれない。
「ネクス、聴覚強化。」
《YES、マスター》
いつも良い返事だね。
僕の聴覚が強化されて、200メートル以上離れた場所の声を拾い上げていく。これはネクスのお陰というよりナノマシンのお陰。耳だけじゃなくて、自在に五感の感度をあげられるんだ。可聴領域の範囲だって思いのまま、通常人間には聞こえない領域の音まで聴けるよ。
お陰で視力なんてもう………ほんとサイボーグだよね。ネクス曰くナノマシンの最適化が完全に終わって、更に都度再調整してるからだそうです。
ガリオンはポケットから、蒼い玉を取り出した。手のひらに乗るサイズの蒼く不思議な光輝く玉だ。クリスタルかな?
「蒼き精霊の結界、発動」
クリスタルに向かって言うと、クリスタルが光だす。蒼い輝くような光があたりを包み、馬車とその周囲を蒼い光で包み込んだ。
おおっこれは初めて見る魔法だ。"結界"って言っていたけど、メトゥ・シが僕の住処にかけてくれてる、"モンスター避けの結界"と似てるかもしれない。精霊の~とか言ってたから、きっとそうだ。馬や馬車を守るためのものなのだろうね。精霊の結界にはそういう効果があるんだろうね。こんど詳しく聞いてみよう。
《マスターの推察通り、メトゥ・シの結界と同じ効果があるようです。効果としてはなんらかの物理障壁と推測されます。》
「障壁?」
《YES》
まあ結界だし、障壁っていうのは合ってると思うけど。それ以上わからないのね?
《・・・・・》
うん、だんまりになったな。ネクスがこれ以上答えないってことは、解らないってことだな。うん。いまはスルーしておいてやろう。
見ているとガリオンと同じように、白フードにマントの者たちが馬車からぞろぞろと降りてきた。
白フードの幾人かは飼い葉桶と水桶を馬車から降ろし、馬の前に置いている。
「食い過ぎるなよ。」
ガリオンは厳つい顔に優しい視線で馬の顔を撫でて言うと、振り向いて眼光を鋭くし、馬車の前に整列した白フードの者たちを一瞥した。
馬車の前に整列したのは、全部で11人居る。全員フードとマントで隠しているから、ネクスも鑑定できないみたいだ。でも多分ガリオンの下に付いているということは、レベルは下なのかな。
全部で12人の冒険者か、此処に来る冒険者としては、いつになく多いな。あのガリオンてののレベルと似たようなのが、12人で狩りをしたら、麓にいるモンスターなんて弱いのばかりだから、あっという間に狩り尽くされてしまいそうだな。
「さーて、テメエら、地獄の入り口だ。」
え……地獄っすか?僕は住んでるんですけど。僕、地獄の鬼っすか?
「「「おおっ!」」」
疵顔が11人の部下に向けて怒鳴りつけるように叫ぶと、その声に負けじと白フードの部下が怒鳴り返した。
てか声でけーよ。モンスターどもに丸聞こえだぞ。つってもいいのか、彼等も狙いはモンスターだしね。
「今からでも遅くはねぇ、ママのおっぱいが恋しい奴はここで待ってても良いんだぜ、そんなチキン野郎は居るか?」
疵顔の質問に、白マントの者達は沈黙で答える。なるほど、全員死ぬことを厭わないってことか。
いい心がけだな。
いったい何人生き残ることやら。
††
本日の更新はここまでとさせて頂きます。
ちょっと風邪をひいたみたいで鼻水が止まらないし、頭痛いし、ついでに歯も痛い。(`;ω;´)
ということで、本日は早めに寝かせて頂きます(これも予約です)
明日は「3話 冒険者と暴虐の破竜ヴェンテゴ」をお送りします。
どうぞ作者のテンションアップの為に、応援をお概いたします。m(_ _)m