第十六話 呪われた世界
俺たちは、ダージリンを後にして大河のほとりに向かう。
「シンはこれから、どうなるのでしょうかねぇ」
「彼らがちゃんとしてれば、何とかなるだろ」
鼻歌交じりに、御者台から爺さんが答える。
「今気が付いたんだけどさ」
クレアが勢いよく話し始める。
「リ=ショウが将軍になったら、うちら、結構重要人物だよね?」
「そ、そうなりますね」
ヴァネッサが、ごくりと生唾を飲み込む。
「この国の英雄になれるのにゃ」
「えいゆう?」
みんなの視線が、御者台の爺さんに集まる。
爺さんは、あくびをしながら、暇そうに馬を進めている。
「トルクゥールでも」「シンでも」「英雄……」
改めて考えてみると、クラリネ爺さんって化け物だな。
■
ダージリンから北に向かって2日後、大河にぶち当たった。
ここから、大河沿いに東に向かう。
「何これ、本当に川?」
「向こう岸が、見えない」「水平線がみえるのにゃ~」
海といっても過言ではないほどの、巨大な川が目の前にある。
1キロほど離れた所を道が通っている。
河には何艘もの船が浮かんでいるが、あまりに川幅がでか過ぎるため、ゴマ粒にしか見えない。
ここは、主街道のひとつであるため、時折、行き違う馬車とすれ違った。
大河は、数十年ごとに氾濫を起こす。そして、上流から肥沃な土と種を運んでくる。
そのため、このあたりに、大きな森や林は無いが、肥沃な土地が広がっており、
農民たちが農耕に精を出していた。
途中で、クレアが農民から新鮮な野菜を買い求める。
そのおかげで、その日の食事はかなり豪勢。
「いっただきまーす」
街道が整備されていると、旅の馬車も多く、野宿用の馬車だまりがある。
そこの片隅でキャンプをしながら、他の旅商人たちの話を聞く。
ダージリンに向かう商人たちは、リ=ショウの事を聞きたがった。
魔物が大発生したが退治された という噂は素早く周辺に流れた。
魔物を撃退したリ=ショウの事は、噂に尾ヒレがついて、
筋骨隆々の頼りがいのある若武者と言う事になっている。
「一時はどうなることかと思ったがなぁ」
「あぁ。でもさすがは将軍様のお血筋だ。
うちのバカ息子なんざ、15にもなるのに店番すらできねぇぜ」
「ちげぇねぇ」
キャンプ地に笑い声が満ちる。
「そういうことなら、サービスすっか」
「だなぁ。魔物に襲われた人は何があっても助ける!」
「おうよ!」
行商人たちが、一斉に右手を振り上げて同意を現す。
翌日、ダージリンへ向かう行商人たちと別れて、旅を続ける。
「シンの人たちって、良い人が多いですね」
「昔、トルクゥールが不死の王に滅ぼされた時。
多くのトルクゥール人が、大山脈を越えてシンに入ったのだ」
珍しく、カリマが話に口を出す。
「そういえば、シンの入り口にあった村、黒目黒髪じゃない人が多かったですよね」
「あぁ。大量に流入してきたトルクゥールの難民を、シンの人たちは暖かく迎え入れてくれた。
自分たちの冬の蓄えも放出して、面倒を見てくれたのだ。
我が祖国は、この国に助けられた」
「だから、カリマはダージリンで突っ張ったのね」
にやにやしながらクレアが突っ込む。
「そうだな。祖先の恩義を、少しでも返したかった」
「良い話だにゃ~」
「おい、街が見えてきたぞ」
爺さんの声で、皆は幌の垂れ幕を上げる。
街としての規模はそれほど大きくは無いが、そのほとんどを港が占めていた。
河に浮いているときは小さく見えた船も、建物と比較するとその大きさが50mはある事がわかる。
街に入ると、まず一番に港に向かう。
以前の海港のときもそうだったが、船便は数日おきに発するため、タイミングを逸すると足止めを食らってしまうからだ。
通りの人に聞きながら「定期便受付」と書かれた小屋に行くと、40がらみの日に焼けたおっさんが店番をしていた。
「ワシも昔は船乗りだったのだが、河に落ちてしまってな」
おっさんの挨拶代わりの過去話を無視して、クラリネ爺さんが話しかける。
「サハイまでの船に乗りたい。馬車は6人乗りを一台だが、次はいつかね?」
「おっ、丁度いいとこに来たな。
あと一時間足らずで出航するのがあるぜ。乗るか?」
爺さんは俺たちの方を振り返り、皆の顔をちょっとだけ見てから、即決した。
「毎度あり~。馬車込みで金貨10枚さ」
船に乗る前に、馬を港のおっさんに渡す。
おっさんは、一目馬を見ると、刻印入りの白い木札を2枚くれた。
この札は、大河の各港共通の馬鑑札。
金、白、赤、青、黒の5段階あり、その段階に見合った馬と交換できる代物だ。
「なかなか上等の馬だな。おまけして白だ」
そう言って、港の職員は、馬を連れて行った。
馬車は船にしっかりと固定される。
「大きな船は揺れにくいのにゃ」
口ではそういいつつ、パルックが船酔いの薬をクレアに渡した。
「はぁ。何日くらいのるんだい?爺さん」
「10日ってところだな。それでサハイにつく」
「こういうとき、クレアボヤンスがあったらなぁ」
「おや、ガルさんの方では?」
横から、ヴァネッサがクレアにちゃちゃを入れる。
「そ、そんな事は無いよ!」
しっかり、真っ赤になっているところがクレアらしい。
船は、ゆっくりと動き出す。
乗っているのは、大半が行商人。
カーフェリーのように、馬車がロープで繋がれて係留されている。
内乱のせいか、半分くらいしか埋まっていない。
しばらく河を下っていくと、点心片手に水面を眺めていたヴァネッサが声を上げる。
「あ、あれ!サメですかね」
ヴァネッサが指さす方には、三角のヒレが見えた。
「イルカだよぅ、姉ちゃん。こんな所にサメなんかいないさぁ」
俺たちの後ろを通りすがった人が、笑いながら親切に教えてくれる。
しばらく見ていると、イルカは水面に顔を出し、船と並行しながらジャンプを始めた。
「可愛い~」
「あんまり、おいしそうじゃないにゃあ」
そんな事を言いながらイルカを見ていたが、日が落ちてくると
イルカたちは何処かに行ってしまった。
夜間は座礁を防ぐために碇で係留しておくらしい。
河だけあって、場所によっては川幅が迫り危険な場所があるので、夜間航行をする場所としない場所があるそうだ。
■
何事も無く船旅は続き、半分程度の航路を通過した。
すでに第九司令部の領地は通過し、第十司令部の領地内に入っている。
司令部間をまたぐ場合は、各司令部の行政部発行の旅行手形の確認が行われる。
とはいえ、乗船時に確認されているため、船の上では形式だけのものだ。
シン国内を旅行するために必要な旅行手形は、第九司令部発行のものを支給されている。
リュウ=リからは、司令部特製のものを発行しようか?と打診されたが、また面倒に巻き込まれかねないので、普通の行商人向けの手形にしてもらっている。
「なんか、匂うにゃ!」
パルックが叫ぶのと同時に、河の中から、巨大なイカの触腕が出てきた。
触腕は、船の舷側に巻き付いていく。
「【具現化】!」
とっさにカリマがチャクラムを具現化し、イカの腕を断ち切る。
斬られた脚は、浄化されて消えて行った。
しかし、イカの腕は、どんどん河から姿を現し、船に絡みついていく。
既に10本を超えているので、イカではないことは明白だ。
「【具現化】」
俺は水竜形態に変わり、河の中へ飛び込む。
河は、思っていたよりも深い。
舞い散る川底の砂のせいで、視界はそれほど良くは無い。
だが、水中の音を拾って周囲を探索する、ソナーに相当する器官があるため、
それほどの問題ではない。
すぐに、目指すイカ(?)魔物の全貌を確認できた。
体長は10mほど。さらに触腕の長さも10m程度伸びている。
さすがに、海域に生息しているものほどは巨大化出来ないようだ。
その姿は、ひまわりの花から、無数のイカの腕が突き出た姿。
「クラゲか?それにしては、どうみても、ひまわり……」
笑っていいところなのか、判断が付きにくい。
手近な触腕に噛みつくと、その腕は溶け落ちて消えた。
やっと魔物を倒したものの、激戦の影響で船は半壊。
沈没しそうな状況を魔法でなんとかしながら、
手近な港町に係留することができた。
「この街で足止めになるのかにゃ~」
みな、半ばずぶ濡れ状態。
数日の間、港町に足止めを食う。
次の船が来るまで、のんびりと空を見る毎日を過ごしている。
「ねぇ、あれ、なんだろ」
クレアが指さす空を見ると、遠くに小さな点が見える。
「アガルタではないにゃねぇ」
「タクヤさん、お願いっ」
ワシに具現化して、空高く飛翔する。
遠目にも珍しい、空を飛ぶ船。
操縦席の前に躍り出ると、こちらに気が付いたのか、カンテラの明りで合図をしてきた。
そのまま誘導して、街のそばに着陸させる。
「はっはっは。クレアさんに会いたい一心で、突貫工事で完成させましたよ。
黒森の木のおかげで、軽量化したうえで強度が向上しました。
おかげで、大山脈を越えることが出来た」
クレアボヤンスから降りてきたガルは、うれしそうにクレアの手を取り、船内を案内する。
「早速で悪いが、出発するぞ」
クラリネ爺さんがドカドカと船内に乗り込んできて宣言する。
「ええ、わかりました」
クレアボヤンスはゆっくりと離陸した。
■
クレアボヤンスで空中から見降ろすと、水晶の森も普通の森にしか見えない。
ところどころ光っているのが問題の水晶なのだろう、
しばらく水晶の森が続いた奥に、森に不似合いな、真っ白いドーム型の建物が見えてきた。
大きさは学校の体育館ほどであるが、窓のようなものが一切なく、ゆで卵を縦半分に割ったような形をしている。
そのドームの前に、クレアボヤンスは着陸した。
「何処から入るのですかね?」
俺たちがドームに近づいていくと、一部がぱかりと開く。
そこから卵の中に入ると、その中には、すべてが真っ白いドーム状の空間が広がっていた。
ドームの真ん中に、以前仮想の電車で出会った「ヤツ」が居る。
「あ、お前!」
「よく来たな。その娘が、お前の憑代か。ちゃんと話し合ったか?」
「何を?」
ヤツは、呆れた顔をして、俺の方を見つめる。
「お前、まさか何も覚えていないのか?思い出しても居ないのか?
自分が死んだときの事とか」
「電車事故に巻き込まれて死んだんだろ?」
やつは、全身を使って、やれやれという言葉を表現する。
「確かに、守護霊に変化させる過程で記憶を操作してはいるが……
ここまでハマるやつは珍しいな」
ヤツはヴァネッサの方に向き直り、真面目な顔になる。
「これは、俺のミスだ。
俺の手違いで、こいつは残しておくべき記憶まで失った」
ヤツがパチンと指を鳴らすと、ドームの壁に画像が映った。
富士山や、スカイツリーといった、なつかしい日本の画像。
「これは、日本?どうして?」
驚く俺に、ヤツは黙るように言って言葉を続ける。
「遥か昔、この世界は、今よりもずっと文明が進んでいた。
当時、ここから東に、日本という国があった。四季が自然を作り出す国。
その国は、ある日世界すべてから攻撃された」
次に映し出されたのは、多数の爆撃機と戦闘機。
そして、大陸間弾道弾と、核兵器のキノコ雲。
「アガルタがお前たちに行っているのと同じことを、お前たちの先祖が小さな島国に対して行った。
日本の国土は毒に侵され、黒い雨が降り、ほとんどの人間が死んだ。
生き残ったわずかな日本人は、不死の王となり、世界へ復讐を始めた」
その言葉を聞いて、俺の記憶が刺激される。
あの日、地下鉄で起こったのは単なる電車事故ではなく、爆撃による緊急停止だった。
俺は、脱出の混乱に巻き込まれ、一昼夜地下鉄の構内で気絶していた。
幸い というべきなのか。
迷路のような地下鉄からなんとか脱出した時、地上は核兵器で焼き尽くされた後だった。
無数の炭化した死体が転がる中、俺は自宅に戻る途中、全身を火傷した妹と出会った。
妹も、俺と同じように地下に居たために即死はしなかったらしい。
だが、出口のない場所で蒸し焼きにされた。
動くものが何もない街。
妹を背負ってさまよう中、ソレが語りかけてきた。
「生き残った日本人よ、富士山に集まれ」と。
富士山に集まる事が出来た日本人は、わずか数百人。
みんな全身を被曝しており、永く無いことがわかる。
最後の日本人を呼び寄せたのは、一人の男。
そいつは、この惨劇について騙り、そして提案した。
「生き延びたくはないか?」「復讐をしたくないか?」と。
富士山とは、もとは不死の山と言われた。
遥かな昔、不死になれる秘薬を隠した伝説が残る。
その秘薬の力で、生き延び、こんな目にあわせたやつらに復讐をすることができる。
生き延びた日本人たちは、呪われた儀式を行って、不死の王となった。
日本全土を覆う、死んだ1億人の怨念を集め、呪いとして精製。
その力で富士山を地面から剥がして拠点とした。
最初の攻撃地はアメリカ。もっとも多くの核を日本に撃ちこんだ国。
不死の王は死なない。
幾度肉体を壊されようと、呪いを材料に肉体を再生する。
そして、強力な魔法を使い、呪いから産まれる無数の魔物を従える。
最初こそ、アメリカ軍が現代兵器で押していたが、徐々に広がる呪いは、アメリカ全土を汚染した。
そして、北アメリカ大陸は、人の住めない地域となった。
死んだ彼らの怨念すら吸い上げて、アガルタと俺たち不死の王は次の目的地へと赴く。
中国、そして欧州……。
彼の話は続く。
「日本人に不死の法を教えたのは、俺の同族だ。
日本が全世界に狙われたのも、もとはと言えば、ヤツの差し金。
俺は、ヤツを止めるためにここに来たが、ヤツは幾恵もの呪いに守られていて、手出しができなかった」
「じゃ、俺が生き返れる ってのは何なんだ?」
「そのままの意味さ。
不死の王の魂を守護霊へと変え、最終的には普通の人間として生き返させる。
一旦普通の人間になれば、もはや不死では無い。
そうやって、全ての不死の王の魂をアガルタから引きはがし、呪いを弱らせるのが俺の計画だ」
世界にまき散らされた呪いは、もとはといえば日本人の残した怨念。
時間と共にゆっくりと霧散していくものを、不死の王がかき集めて使役している。
守護霊は、元々は不死の王である。
不死の王は、呪いを自在に操ることができる。
それが守護霊が呪いや魔物に対して持つ、絶対的な力の所以。
「普通の人間」という言葉に、俺はちょっと、ほっとする。
もう、不死の王に戻らなくてもいいんだ。この世界で生きていける。
「だが、お前の肉体は最早存在しない。
生き返るには、他の人間の肉体を奪う必要がある。
それが、共に旅をした神官や巫女 というわけだ。
1年も共に旅を続ければ、彼らと守護霊との間に絆ができる。
その絆が、守護霊の魂と憑代の肉体を繋ぎとめる」
「ヴァネッサはどうなるんだ!?」
「死ぬ。その娘の祖先たちは、それだけの罪を犯した。
どれほど言葉を飾ろうと、彼らは罪なき住民を、国ごとすべて死に絶えさせたのだ……」
俺たちの間に、沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、クラリネ爺さんだった。
「ひとつ、教えてくれ。
タクヤ以外の、他の守護霊はそういうことをどこまで知っているんだ?」
ヤツはゆっくりと爺さんの方に向き直って答える。
「憎しみが強く残ると、守護霊となっても世界に破壊をまき散らす。
それでは困るので、俺は記憶を操作している。
かつての神官よ。お前の守護霊は、こいつとは逆にかなりのことを覚えていた。
お前たちに対する憎しみも、お前の肉体を奪えば生き返れるということも。
だが、自ら契約を破棄し、不死の呪いに戻っていった」
「そうか……。教えてくれてありがとう。もうひとつ、教えてくれ。
タクヤの生き返りには、共に旅をした肉体があればいいのだろう?」
「ダメですっ!タクヤさんは、わたしの守護霊なんです」
ヴァネッサがクラリネ爺さんの言葉を遮る。
「残念だが、守護霊と神官の関係でないとダメだ」
ヤツは冷酷に宣言する。
「巫女よ、お前の魂は消える。
だが、その肉体は不死の王を閉じ込める枷となり、世界を救う」
「ごめん、ヴァネッサ。俺、こんなことだなんて、知らなかったんだ」
「わたしもです。おあいこですね」
ヴァネッサは、こんな時でも笑いかけてくれる。
「タクヤさんなら、良いですよ」
「俺は、嫌だ!」
やつに向き直って、俺は否定を宣言する。
「構わんぞ。だが、お前は守護霊契約が切れれば、
再び不死の王として、世界に呪いをまき散らす。いつまでもいつまでも」
「それでも、構わない」
「好きにしろ」
怒ったような、嬉しそうな、そんな表情を残して、奴の姿はこの場から消えた。
ドームの壁は最初のような真っ白に戻る。
「ごめん、ヴァネッサ。今までの旅を無駄にしちゃった」
「馬鹿ですよ、タクヤさん……」
誰も口にはしなかったが、これでチョウ=レイの謎が解けた。
守護霊は、契約に従ってヴァンの身体を奪い、チョウ=レイとなって、第二の人生を歩んだのだろう。
「そういえば、カリマは?」
見回すと、いつの間にか、ドームの中にカリマの姿が無い。
「カリマ、受け入れちゃったのかな?」
「だが、それは彼女たちの決断であって、ワシらには何の権利も無い。
それに、誰に何を語る気だ?」
「そ、それは……」
カリマの守護霊の、包帯だらけの痛々しい姿。
それは、彼らの先祖が、彼女に行った仕打ち。
クレアボヤンスに戻った俺たちを、ガルが迎えてくれた。
「不首尾でしたか」
「まぁな。いろいろあったのさ」
「僕は周囲の探索を行っていたので直接会っては居ないのですが、
先にカリマが戻って、部屋に閉じこもっています。
彼女も、皆さん同様に真っ青な顔をしていたようです」
俺たちは、顔を見合わせる。
確かに、真実を知った衝撃で、みんなの顔色が少し青い。
「そっとしておいてやってくれ」
爺さんの言葉に、ガルが頷いた。
「では、これからどうしますか?」
「みんな、俺、ちょっと行きたい所があるんだ」
「日本 ですね?」
ヴァネッサが俺の言葉を継いでくれる。
「タクヤの生まれ故郷か。良いぞ、クレアボヤンスならすぐに行けるだろう」
既に陽が落ちかけていたため、出発は明日に延期された。
夕食の時間になっても、カリマは部屋から出てこない。
真実の重さに、さすがのヴァネッサも食が進まなかった。
夜、寝る気になれないまま、一人でラウンジでぼーっとしていると、
クラリネ爺さんがやってきて、俺の隣に座る。
「タクヤ。お前は、ワシらを憎んでいるか?」
「ずっと昔は、憎んでいたんだと思う。全部、壊されて、殺された」
アガルタが行っている事と、同じことをやられた。
「でも、今はもう解らない。目的と手段が入れ替わったような」