プロローグ 転職面接
『おい、さっさと起きてくれよ』
誰かに乱暴に揺すられ、俺は目が覚めた。
会社からの帰り道。
地下鉄で幸運にも座れたので、うたた寝していたはずだ。
新卒で入った中小企業で、先輩や上司に追い回され、家と会社を往復する毎日。
開いた目に飛び込んできたのは、野山の広がる田舎の風景だった。
視界の隅々まで森が広がる。
ガタンゴトン、ガタンゴトン と単調なリズムの電車音が聞こえる。
(まさか、ド派手に乗り過ごしたのか!?)
そう思って跳ねるように立ち上がり、辺りを見回すと、俺は黄色い一両編成の田舎列車に居た。
車内には、くたびれた赤いシートがずらりと並んでいる。
電車の乗客は、俺と、向かいのシートに座るひょろひょろした白シャツの男だけ。
幾らなんでも、こんな地下鉄の車両は存在しないし、乗り換えた記憶もない。
『次は、お前の番だ』
向かいの男が俺に話しかけてきた。
「なにがだ?」
『お前は死んだ』
男がそう言った途端、脳裏に記憶がよみがえる。
乗っていた地下鉄の唐突な急停止。
爆音、爆炎。そして横倒しになる車両、赤い沁み。
火に撒かれ、必死になって走っている自分。
目の前の男が言った、「死んだ」という事に違和感を感じない。
『だがラッキーな事に、お前には生き返れるチャンスがある』
「生き……返れる?」
両親のこと、友人のこと。やりかけのゲーム。消し忘れたPCの中身。
つまらないと思っていた日常でも、捨てられない事が頭をよぎった。
『それほど難しい事じゃない。
守護霊となって、1年間だけ、主人を守ってやればいい』
「そうすれば、生き返れるのか?」
『あぁ』
「わかった。悪い話じゃなさそうだしな」
『よっしゃ、契約成立だ。ガンバレヨ。あと、生き返りの事は誰にも秘密だぞ』
彼が音高く手を叩くと、そこで俺の意識が途切れた。