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第八回

 サルテオの土がフェオの元に届けられて数日が過ぎたが、フェオは相変わらず部屋に籠もったきりだった。とはいえ食事は徐々に取るようになっていたので、まったくの骨折り損というわけでもなかったようだ。

 軍医からまたフェオの力を借りたいと連絡があったのはそんな折りだった。先日のように急襲を受けたわけではないにせよ、戦争ともなれば日々負傷者は増えていく。

 報せを受けて「どうしたものかの」と言ったリーデンの目は、お前が話を着けてこいとルディオスに告げていた。

「まったく、我が儘にもほどがあります」と、わざとこちらに聞こえるように呟くリドニアの声を背中にルディオスは部屋へと向かった。

 それにつけても不思議なことだ。治癒行為を行う代わりに何らかの交換条件を提示して来るのであれば、話は判る。しかし先日の件に関しても、今後同じ事があった場合の見返りについても、フェオからは何の要求もなかった。

「フェオ」

 軽く扉を叩くと、中から「はい」と返事があった。

「入っても良いか」

「どうぞ」

 ドアを開けてみる。変わらず寝台の上に体を起こした状態だ。ただ、食欲が少しずつ回復しているためか顔色は良くなりつつあるように見えたので、その点でルディオスは少々安堵した。

「邪魔をしてすまない。少し顔色が良くなってきたようだな」

「はい、お気遣いありがとうございます」

 僅かにフェオの口元に笑みが浮かんだ。しかしその笑みは、ルディオスの「実は、再び頼みがある」という一言ですぐに消えた。

「負傷兵の治療・・・・・・ですね」

 ルディオスは黙って頷く。フェオは視線を落とした。その先にある、毛布を巻き込むように握りしめた両の拳が震えていることにルディオスはすぐに気が付いた。

「・・・・・・気が進まないようだな」

 フェオは肯定も否定もしなかった。ただ、その表情は困惑しているようにも激情を必死で抑え込もうとしているようにも見て取れる。

「何か、不満があるのか」

 元より詰問する気は毛頭なかったが、それでもなお威圧感を与えぬように気を遣いつつルディオスは尋ねた。その甲斐あってか、フェオは小さく首を縦に振ると「はい」と絞り出すような声で答えた。

「何だ」

 フェオは答えない。

「話してくれないか」

 フェオはなおも口を開かなかったので、「父上にもリドニアにも言わない。私とお前だけの秘密にしよう」ととりなした。その場しのぎの口約束というわけではなく、リーデンに事情を説明せずともルディオスの権限である程度の融通を利かせることができることを踏まえての言葉だった。

 やや間があったが、やっとのことで「・・・・・・何からお話すればよいか」とフェオが呟いた。

「すぐには答えられぬか」というルディオスの問いにフェオは小さく頷いた。

 黙秘を貫くつもりではない。そう判断したルディオスは、「それならば、日を改めてまた来よう」と述べて、部屋を出ることにした。リーデンには数日かかりそうだが説得は可能そうだと伝えることで納得させた。


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