第五十四回
ラクミアンにはフェオの治療を受けさせることになった。ルディオスにしても休養は許可するつもりでいたが、実を言うと今の状況で家臣が職務を離れることを避けられるのはありがたい。
とはいえ当のラクミアンは、「よろしいのでしょうか。私にフェオ様御手ずから治療をしていただけるとは……」と恐縮した様子だ。
「心配ない。フェオが自分から言い出したのだよ」
そう伝えてもぎこちない表情を見せるラクミアンだったが、最終的には治療を受けることに同意した。
今回もフェオは手順を見せることは拒んだが、治癒自体はものの数分で終わった。
当のラクミアンは茫然としているので話を聞いてみると、「話には伺っておりましたが、本当にすぐ完治してしまいましたもので驚いています。リーデン様がフェオ様を迎えようとしたのも尤もなことでございましょう」と答えた。
ルディオスはフェオの様子を見に行った。
「フェオ、御苦労だったな」
幸いにも特に疲弊した様子を見せていない。以前に伏せってしまったのは、やはり心理的なものだろうか。
「ラクミアンの様子はどうですか」
「心配は要らない。そなたのおかげですっかり回復したよ」
フェオの顔から笑みがこぼれた。しかしそれも束の間で、不安げな表情を見せた。
「どうした」
「なぜ、あのようなことになったのでしょう」
その問いを発したのはラクミアンへの謝意からか、それとも再び同じ事が繰り返されるのではないかという恐怖か。
「そなたのせいではない」
そう応えるのが精一杯だ。ルディオスにもよくわからない。
アラスの所業は言うまでもなく罪に当たるため、あれ以来地下牢に入れられていた。しかし事情を聞こうにも頑として口を割らないのだという。
そんな状態がしばらく続いたある日のこと、「ルディオス様、アラスの事ですが、牢屋番が妙なことを言い出しまして」と、報告があった。
「どうした」
「フェオ様の治癒を受けさせろと言うそうなのです」
あの一件から何日も経っているが、アラスに怪我を負わせたという話は聞いていない。
「捕獲時に怪我をさせたなら、何故報告しない」
「それが、牢に入れた後で故意に床に拳を打ち付けたようです」
牢の床は石造りだ。仮に脱獄を企てているとしても、素手で壊せるものでないことはアラスも理解しているだろう。
そうなると、自分の体を使ってフェオの力を試そうということか。
「まずは医者に診せろ。見立てはアラスには伝えぬように」
「承知しました」
その日のうちにアラスを医者に診せたところ、骨にひびが入っているため治療が必要とのことだった。その場で手当をしようとしたものの、フェオの治癒でなければ受けないと突っぱねたのだという。
「つまり、治療が必要な状態であることは間違いないのだな」
「左様でございます」
罪人とはいえ、治療を施さないことは道義に反する。その点ではルディオスも異存はない。しかし、そもそもアラスはフェオに危害を加えようとしたのだ。フェオをアラスに近づけてよいものだろうか。
骨のひびであれば即刻命に関わるものではないことと、元よりフェオの治癒については使用を制限する方針を定めていたこともあったため、一度会議にかけることにした。しかし案の定、「あのような狼藉をはたらいておきながら治療を望むなど、虫が良すぎるにもほどがあります」と反対する者ばかりだ。
「それに、また万一フェオ様に危害を及ぼすようなことがあればどうなさいますか」
それは当然ルディオスも気にかけていた。それ以前にアラスと対面することをフェオ自身が拒んだとしても不思議ではない。まずはフェオ自身の意志を確かめる必要があった。




