第五十三回
そのときだった。
「うおおおおおおぉぉああああぁぁ!」
辺りに獣のような咆哮が響きわたった。何者かがフェオに向かって突進していく。アラスだ。
悲鳴を上げながら逃げ惑う子供達には目もくれずに突き進み、フェオめがけてアラスは鈍色の金属を振り下ろす。しかし、咄嗟に間に入ったラクミアンが刃を受けフェオは被害を免れた。
「狼藉者だ、捕らえよ!」
ルディオスの声にすかさず兵士達が槍で押さえかかる。アラスはすぐに組み伏せられたが、「ふざけるな!」と叫ぶと血走った目でこちらを睨みつけてきた。
「地下牢へ連れて行け」
ルディオスの命でアラスは引き立てられていった。
「フェオ、怪我はないか」
「はい」
か細い声ではあったが、フェオはしっかりと答えた。確かに、出血している様子は見られない。
つい先ほどまでフェオの周りで笑顔を見せていた子供達は母親に泣いて縋りついている。ルディオスは手を打つと、「今日の慰問は取りやめとし、安全を確保した上で、後日改めて行うものとする」と宣言した。
ルディオス達は城内に戻ったが、フェオが突然くずおれた。民衆の前では倒れるまいとしていたのだろう。
「フェオ!」
「すみません、大丈夫です」
気丈にもすぐに立ち上がったが、「すまない。恐ろしい思いをさせてしまったね」とルディオスが抱き寄せると体を小刻みに震わせていた。
傍についていてやりたいが、ルディオスには国王代理としての職責がある。ひとまず女官を呼んでフェオの部屋まで付き添わせることにした。
そのまま召集を行い、緊急会議を開いた。幸いにも、集まっていた国民には怪我が無かったことが確認できた。
「それで、ラクミアンの傷はどうだ」
「医者の話では、命に別状はありませんが、かなり深い傷ですのでしばらくは職務を離れる必要があるだろうとのことです」
ひとまず安堵はしたが、予断を許さない。
「アラスの使った武器については何かわかったか」
「支給品の缶詰の蓋を加工したようです」
別の家臣が「しかし、缶詰の使用はどうしでも必要になりますが」と発言した。ルディオスにもそれはよくわかっている。
「配布は続けざるを得まい。缶の回収方法で何か手を打つとしよう」
それからルディオスは、フェオの見舞いに向かった。
「フェオ、大丈夫か」
「はい、御心配をおかけしました」
心身共に落ち着いたらしく、声も態度もしっかりとしている。
「ラクミアンは、どうしましたか」
傷の深さについては伏せておくべきだろうか。ルディオスは一旦躊躇したが、「命に別状はない。ただ、当分の間回復に専念させる必要がありそうだ」と答えた。
フェオは案の定顔を曇らせたがすぐに顔を上げ、「私が治します。元はといえば私のせいなのですから」と言い放った。
「フェオ、それは違う」
ここに来なければ、このような目に遭うことも、不要な負い目を感じることも無かっただろうに。
幸せにしてやりたい。フェオも、この国の民も。ルディオスは改めて強くそう感じた。




