第五十二回
慰問は滞りなく終わった。
「フェオ、疲れただろう」
「はい……」
フェオは外でこそ気丈に振る舞っていたが、城の扉が閉ざされるなり息をついて目を閉じている。いつもなら心配させまいと無理にでも笑顔を見せるところだが、今はその余裕も無いのだろう。
「少し休むといい」
「はい」
フェオはほっとした様子で部屋へ戻っていった。
それから数日後、家臣の一人がルディオスを呼び止めた。
「ルディオス様、先だってのフェオ様の慰問の件でございますが」
ルディオスは気構えた。
「何か、良からぬ話か」
「いえ、避難してきた子供たちの間でまたフェオ様に会いたいという声が出ております」
「では、また席を設けるとしようか」
とはいえ、まずはフェオ自身の了解が必要だ。ルディオスはフェオの部屋に向かった。
「フェオ。実は、頼みがある」
「どなたか怪我を?」
「いや、そうではない。実は子どもたちが、またそなたに会うのを心待ちにしているようなのだ。また会ってやってはくれまいか」
「まあ……」
フェオは驚いていたが、「私にできることでしたら、喜んで」と応じた。
「そうか」
子どもたちの間では疑いが晴れたのだろう。だが、気がかりなのはあのアラスだ。フェオを見ていたあの目。他の者たちとは明らかに違っていた。
フェオを知っていたのだろうか。しかし、フェオが過去にイス国に入国していた記録はない。では、アラスがサルテオの出身なのか。だがアラスが移民であればその旨が記録として残されているはずだが、それもない。
となるとアラスが何らかの形でサルテオに行ったことがあるのだろうか。原則として民が出国する際には理由を問わず王室への届出を義務づけている。だがトイオラ村の村民から届出を受けた記憶はない。そもそも出国するのは王室から向かわせる遣いか兵士ぐらいの者で、一介の農民から届出があるようなことがあれば、自分が思い出せないというのは考えにくい。家臣がリーデンの許可無く認めたとしても何の得にもならないだろう。賄賂を渡せるほどの収入がアラスにあったとは思えない。
見当もつかないまま、フェオの慰問の機会が再度設けられた。ルディオスは前回のように少しだけ離れたところで見守ることにした。
フェオが姿を現すや否や、「フェオさま!」と、パンくずに群がる小鳥のようにわっと子どもたちが集まってくる。フェオはそれに戸惑う様子もなく、笑顔で話しかけていた。
その様子に、いつかフェオを正式に王妃として伴い公務を執り行う日を思い重ねる。フェオと一緒なら、この国を幸福に導いていける筈だ。




