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第五十一回

一夜が明け、変わらず旅は続いていた。ニイドの様子は特に変わることもなく、再びあの話を持ち出すこともなかった。

あれは現実ではなく、夢でも見ていたのだろうか。ラドがそう思い始めたそのとき、「ラド、昨日は儂の話を聞いて、どう思った」と切り出してきた。

ラドは言葉に詰まってしまったが、正直に、「何だか……信じられません」と打ち明けた。

叱られるだろうかとも思ったが、ニイドはただ目を閉じて頷いた。

「無理もない。儂が噂を聞きつけて村に来たのも、デュマルのように魔術師として身を立てる者が出ることで、村を立て直す手伝いができればと思っていたからだ」

そこでニイドは目を開いた。

「お前のことだ、この話を聞いたからといって村に帰りたくないと言い出すことはあるまいが……」

「もちろんです」

即答はしたものの、ラドにはひとつ気がかりなことがあった。

村に戻ることに異存がないのは本当だ。しかし理由がどうであれ、村の人々が人殺しだというのは事実だ。周囲に対してこれまでどおり接することができるだろうか。いかに隠したつもりでも、態度が変われば周囲には気づかれてしまうだろう。もし理由を尋ねられたらなんと答えればよいのか。ありのままを話したとして、相手がそのことを知らなかったということも充分有り得る。

そもそも、人身御供の風習はいつまで続いていたのだろう。確かタウラの話では、セヴェラはラドよりも七つ年上となっていた。しかしラドにはタウラに子どもがいた記憶がない。ラドが生まれた頃には人身御供の風習はすでに絶えていたか、ひょっとするとセヴェラが人身御供にされた頃には自分はすでに生まれていてもまだ物心がついていなかっただけなのかもしれない。それに、子どもたちには本当のことは言わずに急な病気で命を落としたと伝えたとしてもおかしくはない。となると話が通じるのはそれなりに年のいった人物ということになる。

皆、ただでさえ村を追われて意気消沈している。年輩者ならばなおさらだ。そんなところに暗い記憶を呼び起こさせるようなことはしたくなかった。

自分一人で考えていても埒があかない。思い切って「先生、もし誰かに何か聞かれたら、俺いったいどうすればいいですか」と聞いてみた。

「そうさな……できるだけ話題には触れぬ方がよかろう。それに、皆もお前から無理に何かを聞き出そうとするようなことはあるまい。イス国で何かあったと思うだろう」

そうだった。イス国へ、フェオの所へ向かっている最中だったのだ。

果たしてイス国に辿り着くまではいったいどれほどかかるのか。そもそも、村の傍にあった森から入っていくのはすでに不可能なはずだ。おそらく他の国を通って迂回をしていくのだろう。村の外に出ることすら初めてだったラドにとって、他の国というのはまったく未知のものだ。とはいえ物見遊山ではない。窓の外を眺める気にすらならなかった。

そんなことよりも、むしろフェオのことで頭がいっぱいだった。いったいどうしているのか。今回の件に関与していると疑われてはいないか。幽閉されているなどということはないだろうか。

ラドの疑問をよそに変わりなく道程は進んでいく。わざわざ日数を数えるような気にもならなかったが、出立から十日は優に過ぎていただろうか。

「これより我が国に入る。妙な行動は慎むように」と遣いから通告があった。いよいよイス国に入るのだ。

国境を越えたからといって気候風土が突然変わるわけではない。それでも、胸に重くのしかかる何かがある。

「ラド」と、ニイドが声をかけてきた。

「大丈夫か」

「ああ……はい、大丈夫です」

そう応えたものの、実際のところはニイドも気づいていたに違いない。それでも、それ以上こちらを問いただすようなことはしなかった。

どこをどう通ってここまで辿り着いたのか、一口にイス国といってもここはどのあたりなのか、ラドにはまったくわからない。ましてやフェオがいるであろう城がどのあたりにあるかなど、まったく見当がつかない。

それでも、フェオはこの国のどこかにいるのだ。


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