第四十七回
「そなたが、ニイド=デュランタか」
「いかにも」
すると遣い達の表情に変化が現れた。
「そなたの名は、我々も聞き及んでいる。案内を頼む」
荒々しさは無くなり、ニイドを見る目にはある種の敬意が感じられる。
ニイドは片手で遣いを制すとラドに目配せをした。ラドも慌てて彼らの後を追う。
ニイドを先頭に二人の遣いが続き、ラドが最後となって数日前と同じ道を歩く。
そして、一行はあの小屋に到着した。
「少し、待たれよ」
ニイドは一同を片手で制すと、またあの調子で扉を叩いた。
頭すら通らないほど細く扉が開き、そこへニイドは顔を近づけていく。こちらからは中の様子を伺うことも聞き取ることもできないが、何か話しているようだ。
やがてニイドは振り向くと、「皆、こちらへ」と手招きをした。ラド達が近づくと人が通れるほど扉が開かれ、一行は室内に入った。
中にはやはりエオーの両親がいた。二人とも、緊張した面持ちである。
「それで、例の魔術師はどこに」
エオーの母親は震える手で奥の寝台を指し示した。遣いは足早にそちらへ近づいていく。
まだ木枠が着けられたままだ。しかし遣いは何のためらいもなく毛布を剥ぎ取った。
ラドは息を呑んだ。露わになったエオーの背中はあのときからまったく変化が見られない。
「おい」
遣いがぶっきらぼうに発した言葉にも、エオーは何の反応も示さなかった。ただ、呼吸に合わせて背中が上下に動いていることは見てとることが出来る。
「見てのとおりだ。そちらへ引き渡すことはおろか、問いたださせることもできぬ」
ニイドが声をかけると遣い二人は顔を見合わせた。
「確かにこれでは話は聞けぬようだな。こちらとしてもこのまま死なれることは本意ではない」
イス国が軍事国家であることは広く知られている。目的達成のためならばどのような手段をとっても不思議ではないと思われたが、どうやら拷問にかけるつもりはないようだ。エオーの母親が安堵した表情を見せた。
「しかし、このまま国へ戻るわけには行かぬ」
遣いの目つきが変わった。一転、緊張が走る。
「代わりに、そなたに話を聞かせていただきたいのだが、いかがか」
その目はニイドをまっすぐに見つめている。単にこの場での説明を要求しているわけではない。それはラドもすぐに察した。
「承知した、参ろう」
間髪を入れずに発せられた言葉に、ラドは思わずニイドを見た。
「そんな!」
「代わりに私が罰を受けます、どうか、どうか賢者様には……!」
エオーの両親達が口々に訴えるものの、遣いは「お前たちには聞いておらぬ」と洟もひっかけない。
当のニイドはといえば、「心配は要らぬ。お二人ともエオーについておられよ」と柔和な表情を見せた。
「それと、お前もだ」
不意に遣いから声をかけられ、ラドは思わず息を呑んだ。
「あれを連れ戻したのはお前だろう。お前にも話を聞かせてもらう必要がある」
断る余地はない。ラドは黙って頷くしかなかった。それに、ニイドが一緒ということも少なからず安心感を与えた。
そこへニイドが、「ただし、支度に少し時間をいただきたい。出立は今日でなくてもよろしいか」と割って入った。
「承知した。明日、昼前に迎えに行く」
そう告げると、遣い達は部屋を出ていった。
「先生……」
「ラド、巻き込んでしまってすまぬな」
ラドは首を横に振った。
「賢者様、申し訳ありません。我々のせいで……」
父親は拳を震わせ、母親はすすり泣いている。
「いや、お二人のせいではない」
「しかし、賢者様にこんなご迷惑をかけてしまって……」
「ラド君、ごめんなさいね。本当に何と言ったらいいか……」
ラドは「いえ」と答えるのが精一杯だった。




