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第四十五回

夕飯を終えて部屋に戻っては来たものの、何もすることがない。ただ洞窟から持ってきた土を眺めて思いを巡らすばかりだ。フェオはどうしているだろうか。

それでもいつの間にかかなりの時間が経っていたらしい。気がつくと、周りの部屋や廊下からの物音は一切止んでいた。皆寝静まったところだろうか。

ラドも寝床にもぐり込み、目を閉じた。しかし、眠気は微塵も感じられない。どうしようもなく輾転反側し続けていると、戸を開け閉めする音が聞こえた。その音は重い。各部屋の扉ではなく、正面玄関のものだ。

それまでに、他の扉の音はしなかった。部屋から誰かが外へ出ていったのではなく、中へ入ってきたことになる。ラドは直感した。ニイドが戻ってきたのだ。

ラドはそっと床を抜け出した。やはり周りからの物音は聞こえない。扉の音で目を覚ましたのは自分だけかもしれない。

ニイドの部屋は一階にある。部屋に入ってしまう前に話しかけたい。ラドは階段を駆け下りた。

一階に降りるとちょうどニイドが部屋の扉を開けようとしていた。

「ラド、まだ起きていたのか」

先に声をかけられてラドは言葉に詰まってしまった。なぜ、気づかれたのだろう。

「もう皆寝ているだろう、静かにしなさい」

慌てるあまり、足音を潜めるのを忘れてしまったのだ。それならニイドに気づかれるのも当然だ。

「あの、先生」

「どうした」

「エオーはどうしていますか」

ニイドがエオーの様子を見に行ったという確証があるわけではなかった。ただ、他にニイドがどこかへ出かけていく理由が思いつかなかったのだ。

「気がついていたか」

どうやらその通りだったらしい。

「明日の朝、儂はまたエオーの所に行く。お前も来なさい。食事を終えたら表で待つように。ただし、皆には話さぬようにな。儂が来るように言ったが詳しい話は知らぬととしておけば、皆も深くは問いつめるまい」

「わかりました」

翌朝、ラドは言われたとおり外へ出てニイドを待っていた。幸いにも他の村人に声をかけられることも無い。ほどなくしてニイドも現れた。

「では、参ろうか」

エオーはどこにいるのか。それについてはニイドは何も語らない。ただ一言も発することなく先を歩いていく。その背中に言葉を寄せ付けぬ気配を感じ、ラドも押し黙ったまま後をついていった。

間もなく真正面に城が見えてきた。ニイドが昨日も来ていたためだろう、特に衛兵に誰何されることもなく二人は城門をくぐった。

しかし、ニイドは城に入らず裏手へと回っていく。ラドは不思議に思ったが、そのまま着いていくしかない。

やがて離れの小さな木戸の前でニイドが足を止めた。おそらく住み込みの使用人のためのものだろう。

ニイドが特徴的な拍子で扉を叩く。

「儂だ」

扉の叩き方そのものが符丁になっていたらしい。やや間があって、ごく細く扉が開けられた。ラドには中の様子が見えない。

「今日はラドも来ておるが、よいか」

そこでやっと人一人がなんとか通ることのできる幅まで扉が開き、ニイドが手招きをした。

ラドが近寄ると、そのまま人攫いでもするかのように中へ押し込められた。ニイドもその後に続くと、獣にでも追われていたかのように素早く、しかし音を立てることなく扉を閉める。薄暗い室内に目が慣れてくると、エオーの両親がいることに気がついた。

「ラド君、来てくれたのか」

「苦労をかけさせてしまって、ごめんなさいね・・・」

母親のほうはすすり泣いている。

「それで、エオーは」とニイドが問うと、「まだ、あのとおり・・・・・・」と父親が部屋の奥を指し示した。

そちらを見ると、寝台に誰かがうつ伏せで寝かされている。顔は反対側に向けられていたが、体格からして間違いなくエオーだ。

エオーは身動き一つしない。まだ意識が戻っていないのだろう。肩から下には半円状の木枠が間隔を開けて並べられている。腰から下には毛布が掛けられていたが、それも木枠の形に沿っていた。体に直接毛布が触れないようになっているのだろう。あれから幾日か経っているにもかかわらず、遠目に木枠の隙間越しでも背中の火傷はひどい様子が見てとれる。


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