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第四十二回

 演説から数日が過ぎた。

「ルディオス様、お疲れなのではありませんか」

 家臣の声にルディオスは顔を上げた。このように声をかけられることがこのところ増えている。確かにサルテオからの魔導師が現れて以来、禄に睡眠がとれていないのは事実だ。とはいえ、気を遣わせたくはない。フェオにも、家臣達にも。

「いや、大丈夫だ」

 ルディオスの頭からは民衆の言葉が離れなかった。すべての発端はフェオを結婚相手として迎え入れたためではないかという、あの言葉。それは事実と言えないこともない。そのようなことを王室が公言したわけではないが、国政に直接は関与しない民衆がそのように感じ取ったとしても不思議はない。

 それに、まだ伝えていないことがある。いつかはリドニアの訃報も伝えねばならない。あの場は咄嗟に誤魔化したものの、いつまでも伏せてはいられないだろう。しかし、何時どのように伝えるべきだろうか。

 それでも演説の甲斐あってか民衆の間に流れていた祟りの噂は一時収まったように思われていたが、それも長くは続かなかった。

「ルディオス様」

「どうした」

「実は、また妙な噂が流れておりまして」

「と、言うと」

「それが、フェオ様の力がまやかしではないかというのです」

「なぜだ」

 ルディオスはひとりごちた。

「申し訳ありません、まだ詳しいことは掴めておりません」

「いや、そうではない」

 そもそもフェオは負傷兵の治療をさせるべく連れて来られた。その矢先に戦争を終結させてしまったのは能力自体が欺瞞だったからだと思う向きがあっても不思議ではない。

 それに、ルディオスもリーデンも負傷兵がたちどころに回復したのを目の当たりにしなければあれほどのものだとはとても信じることができなかっただろう。

 そのため、噂については特に突飛なものとは思えない。しかしルディオスには気になることがあった。

「誰か、フェオを貶めることで得をする者がいると思うか」

「それは・・・・・・」

 ルディオスの問いに家臣は口ごもってしまったが、しばらく間を置いて、「フェオ様は現在は国賓ではいらっしゃいますが、民衆からすればすでに王室の一員も同然なのでございましょう。憚りながら、王室に怒りをぶつけずにはおれないのではないでしょうか」と答えた。

 もちろんそれは大いに有り得る。しかし、なぜルディオスではなくフェオに対する悪評が流れるのだろう。

 今回の火災は確かにサルテオから来た魔導師によるもので、フェオはサルテオの出身だ。しかしサルテオも被害を受けている以上、フェオが引き込んだと考えるには無理がある。

 それに、今はとてもそれどころではないとはいえ、ゆくゆくはフェオを正式に王妃として迎え入れることになるのだ。それまでには根拠のない悪評を打ち消しておきたい。

 そのためには実際にフェオの力を見せるのが一番だが、だからといってわざわざ誰かに怪我をさせるわけにもいかない。仮に傷を治して見せたとしても、こちらが仕組んだ茶番劇だと思う者もいるだろう。

「それで、その噂の影響は」

「今のところはそれほど大きなものではないようです」

 とはいえ安心は出来ない。和平に関しては目処がついたとはいえ、焦土の件は拡大こそ収まりつつあるものの復旧の見込みはまるでない。些細なことが火種となって民衆の間から騒ぎが起きても何の不思議もないのだ。

 今のうちに、何か手を打たねば。

 そう思っていたところ、フェオ自身から思いがけない提案があった。

「ルディオス様」

「どうした」

「私に何かできることはありますか」

「心配には及ばない、民にも我々にも怪我人は出ていないよ」

 ルディオスがそう言うと、フェオは首を横に振った。

「いえ、治癒でなくてもかまいません。私だけ何もしないでいるというのでは落ち着かないですから」

 正式に妃として迎え入れてからであればまだしも、国賓という扱いである現在の状態でフェオに負担をかけることは避けたい。しかし指をくわえて見ているだけではいられないというのももっともだ。それに、何かすることがあれば多少なりとも気は紛れるだろう。しかし、この折りである。ルディオスは少し迷ったが、「言いにくいが、そなたのことを快く思わない者もいるようだ」と告げた。

「かまいません」

 フェオはきっぱりとそう答えた。とはいえ噂を流すのみならず、フェオに危害を加えようとする者がいないとも限らない。

「わかった。考えておく」

 ルディオスはそう答えた。


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