第四十一回
そうこうしているうちに、夕飯の時間になった。各部屋には台所は付いていなかったが、もともと建物自体が寮であったため一階には広い食堂と共用の台所がある。当分の間は国から食材が支給され、女達がそれを調理し皆で一緒に食べることになった。
食事中、誰もエオーのことについては話題にしない。そういえば、道中もそのことを尋ねる者は一人としていなかった。皆が皆ラドのようにエオーと仲違いをしていたわけではない。彼の身を案ずる者がいてもよいのではないか。
「ラド君、具合でも悪いの?」
そのとき初めてラドは食事の手を止めていたことに気がついた。声をかけたのは村で隣に住んでいたタウラだ。おそらくラドの母親よりも年上なのだろうが、子どもはいない。それでもラドのことをまだ幼いころから何かと可愛がり、両親を亡くしてからもラドのことを気にかけてくれていた。
「口に合わなかったかしら」
「いえ、美味しいです」
慌ててオムレツを口に運ぶ。ラッツェという香草と、チーズの風味が感じられる。これを作ったのはきっとタウラだろう。ラドがまだ料理に慣れないころ、よくタウラが差し入れをしてくれたものだ。
「そう? よかったわ」
微笑むタウラの隣では、その夫のジオドが料理を口に運んでいる。
そして、静かにしていたのは子ども達も同じだ。また馬車の中のように質問責めに遭わないだろうかとラドは危惧していたが、子どもたちは皆大人しく両親のそばに付いている。食べることに気を取られているのか、それとも大人達の様子を感じ取っているのだろうか。
やがて食事を終えた者から一人、また一人と部屋へ戻っていく。その中で、ジオドはなかなか席を立とうとしない。
「あんた? いったいどうしたんだい」
ジオドの皿には野菜が丸ごと残されている。妻の問いかけにジオドは、「・・・・・・不味いな」とぼそっと呟いた。
たたみかけて何か言おうとするタウラの言葉を遮るように、「俺ならもっと旨いもんを育てられる」というと、「・・・・・・あんなことさえ、なけりゃあな」とジオドは食堂を後にして行った。
タウラはその後を追うこともせず、ジオドの皿を見つめている。それは果たして自分の作った料理を口にしてもらえなかったというだけだろうか。タウラのこれほど悲しげな表情を、ラドは初めて目にした。声をかけようとしたラドだったが、適当な言葉が思い浮かばない。ただ黙々と残りの料理を口に押し込むしかなかった。
村ではニイドやフェオの父、それに医者などごく少数の専門技術を持つ者を除いては、ジオドを含めほとんどの者が畑仕事に従事していた。しかし、いまやその畑もすべて焦土と化してしまった。これから先、大地が元に戻るまでどれほどの時間がかかるのだろうか。それまでどうやって生計を立てていくのか。いや、それだけではすまされないかもしれない。
そもそも、村に戻れる日は来るのだろうか。




