第四十回
ラド達が都に辿り着いたのはそれから数日後のことだ。
路に隙間なく石が敷き詰められているのを見てラドは驚いたが、馬車を走らせやすくするための工夫なのだとニイドが教えてくれた。
そのとき向こうから、「先生!」と聞き覚えのある声が耳に入った。
「おお、デュマル。しばらくだな」
デュマルも以前はラド達のようにニイドから魔術を教わっていた青年なのだが、その腕前を見込んだニイドの働きかけもあって、魔術師として王朝にかかわるべく二年前から都へと移っていた。
「話は聞きました。賢者様がいなければ、皆も避難に間にあわなかったことでしょう」
デュマルはそこで言葉を切るとラドのほうへ向き直り、「ラド、お前もよく頑張ったな」と声をかけた。ラドは「ありがとうございます」と答えたものの、やはり今回の件で誉められるのはどこか居心地が悪い。
そもそも、自分のしたことはそれほどのことなのだろうか。
確かに結果として自分はニイドの命を受け、エオーに対して魔術を放ち、進撃を止め、彼を連れ帰った。だが、果たして自分はエオーを「倒した」と言えるのか。結局エオー自らの禁忌の力を受けたに過ぎないではないか。
もしあのまま戦い続けていたらどうなっていたのか。魔杖が折られてもなお、エオーを足止めすることはできていただろうか。
ラドが思案していたところへ、デュマルの両親がやってきた。二人にとってもデュマルに会うのは彼が村を出て以来のことになる。村にいた時分から自然と門下生達のまとめ役になっていたデュマルだが、王朝従事者のみに許された刺繍入りのローブを纏ったその姿はより一層の風格を醸し出している。デュマルの母は、「まあデュマル、しばらく会わない間にずいぶん立派になって・・・・・・」とそのまま泣き崩れてしまった。
「母さん、相変わらず大袈裟なんだから」
デュマルは苦笑しながら母親に合わせて屈み込んで背中をさすると手を取って立たせ、ニイドに、「城にも話が通っています。手狭かもしれませんが、全員分の住まいも用意できました。御案内します」と伝えた。
「うむ、頼んだぞ」
そう応じたものの、ニイドは踵を返し一人別の方向に向かおうとしている。
「先生?」
ラドが声をかけると、「儂は用があってな」と答え、そのまま歩き去った。
ラドはそのまま他の村人達と一緒に、デュマルの案内で用意された住まいへと向かった。その間にもデュマルは母親の相手に忙しそうだ。仕事は辛くはないか、慣れない都での暮らしに難儀していないか、不自由はしていないか。デュマル自身も久しぶりに両親に会えて悪い気はしないのだろう、とくに嫌がるふうでもなくそれに受け答えをしていた。
これまでの道中のように子ども達が愚図り始めることもなく、そう遠くない距離を歩いたところで、「ここです」とデュマルはある建物を指し示した。
村人ほぼ全員を収容するためというからにはいくつもの小屋が並び立っているものとばかり思っていたが、目の前に現れたのは一棟の大きな建物だった。
「元は地方出身者のための寮ですので、家族連れでは狭いかもしれませんが、しばらく辛抱をお願いします」
「あら、それじゃ今まで住んでいた人たちは?」
これを聞いたのはデュマルの母親であったが、デュマルは「もともと修繕する予定だったから、今は別の建物に移っているんだ」と答えた。
中へ入ってみると、長い廊下に沿って扉がずらりと並んでいる。その造りはここに来るまでに宿泊した宿屋を思わせた。建物自体は立派な石造りではあるが、修繕予定の言葉どおりところどころで傷みが見られる。それでも住まいとしては申し分ない。
建物は五階立てになっていたので年老いた者から順に下の階の部屋が割り当てられた。逆に体力のあるラド達は上階の部屋を使うことになったが、馬車のときとは違いラドは一人で部屋を使うことができた。
大した量の荷でもないので荷解きを終えても作り付けの収納は半分が空いている。気が緩んだのかどっと疲れが出てしまい、すでに整えられていた寝台に倒れ込んだ。
そのときになって、ラドはふと気づいた。エオーは、その両親はどうしたのだろう。三人とも先に都に来ているはずなのに、ニイドもデュマルもそのことについては一切触れなかった。




