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第四回

 ルディオスは耳を疑った。まさか奇策を講じるだけの余力が敵方に残っていようとは。

 リーデンも同じように感じていたに違いないが、表情を崩さずに「被害はいかほどか」と問うた。

「幸いにも死者は出ておりません。しかし怪我人が多数のため、駐屯地の軍医と魔術師だけではとても手が回りません」

 リーデンはそれを聞くと、「ちょうど良い」と口の端を歪めて笑った。

「義姉上を戦地へお送りするのですね」

 逸るリドニアだったが、「愚か者が。そのようなことをして略取でもされたらどうする」と叱責され黙り込んでしまった。

「至急、負傷兵を選り分けよ。軍医と魔導師には軽傷者の看護にあたらせろ。移動に耐えられる重傷者は城へ連れて参れ」

「御意」

 急使を下がらせると「果たしてどれほどの力か、見物だな」とリーデンが笑みを浮かべた。それは、狩猟で獲物に止めを刺す直前に浮かべるそれに近かった。

「私がフェオに話してきます」

 気重であることを悟られぬよう気を配りつつルディオスは部屋を出た。

 そう時間は経っていないので、まだフェオは書庫で過ごしていることだろう。ルディオスは地下へと続く階段を下って行った。

 重い扉を開けるとそこには司書がいる。

「サデライよ」

 声をかけると司書は書き物をしていた手を止めて顔を上げた。リーデンよりもおそらく年嵩であろうこの司書は自分から口を開くことはほとんどなかったが、決して冷淡ではない。それは柔和な表情からも見て取れる。

「フェオがこちらに来ているはずだが」

「はい、歴史書を探しておいででした」

 フェオぐらいの年齢の女性ならもっと軽い読み物を好むと思っていただけにこれは少々意外だったが、「そうか、ありがとう」とだけ応えて閲覧室へ向かった。

 フェオはルディオスに気づかぬ様子だったが、あと数歩というところまで近付くと、「ああ、ルディオス様」と顔を上げた。

「邪魔をしたようだな」

「いいえ」

 そう微笑むフェオの手元には分厚い歴史書がある。読み物というより年代史と呼べるものだ。開いているページからすると、もし冒頭から読み進めていたのならかなりの速さで読んだことになる。

「実は、言わねばならないことがある」

 ルディオスは一端言葉を切った。

「我が軍が急襲を受けたと報せが入った」

 フェオの表情がさっと曇った。

「明後日か、早ければ明日にでも負傷兵がこちらに到着するはずだ」

 その先を続けようとしたルディオスを遮るようにフェオが「わかりました」と言葉を差し挟んだ。そのまま結んだ口唇が僅かに震えている。

「すまないな」

「・・・・・・いいえ」

 先ほどよりはほんの少し返事に間があった。


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