第三十三回
「フェオ!」
慌てて駆け寄り抱き起こしてみると、気を失ってこそいないが頭を押さえている。
自分や家臣だけではなく、フェオも一睡もしていない。ましてや事の発端は自分の故郷なのだ。精神的な負担もかなりのものに違いない。
「椅子を持て」
座らせたものの、いつものように姿勢を正すこともなくしおれた草木のようにぐったりとしている。
「少し、休みなさい」
「ですが・・・・・・」
ルディオスは、なおも拒もうとするフェオの言葉を遮るように前屈みになって顔を近づけると、「そなたの心遣いはよくわかる。・・・・・・だが、民を助けるためには私達が倒れてはならないのだよ」と優しく言い添えた。
フェオは変わらず頭を押さえたままでいた手をゆっくりと放すと改めてルディオスの方を向き、「はい」と答えた。
しかし、そこで緊張の糸が切れてしまったのだろう。顔をルディオスの胸に埋めるようにして、気を失ってしまった。もともと椅子に座っていたこともありどこも怪我をするようなことにならなかったのは不幸中の幸いだ。
侍女に付き添われてフェオが部屋を後にすると、一人の家臣が「サルテオに遣いを向かわせるのことですが、フェオ様と同郷となりますとニイドも国境付近に居るのでございましょう。果たして無事かどうか・・・・・・」と発言した。
それはルディオスも判っていた。イス国の領土が焼かれたのと同様に、サルテオ側も被害を受けていることは想像に難くない。延焼に巻き込まれて命を落としていることも有り得る。また、そうでなくても他の土地へ移ってしまい探し出すのにさらに時間がかかる可能性も充分考えられた。
「遣いにはまず都へ向かわせる。サルテオに被害が出ているならば、向こうもニイドに説明を求めるはずだ」
「では、早馬を向かわせます」
ルディオスは再度考えを巡らせた。避難させた民衆もそろそろ起き出す頃合いだろうか。
「食料配給の準備はできているか」
「はい」
「ではその際に、傷病者が出ていないか再度確認をとれ」
「かしこまりました」
フェオのように、その場では気力で持ちこたえていても後から倒れる者が出ていたとしても不思議ではないからだ。
それを受けて、食料の支給が終わると報告が入った。
「申し上げます。これまでのところ新たな傷病者はでておりません。ですが、ひとり如何わしい者がおります」
「何者だ」
「それが、決して名乗ろうとしないのです」
奇妙なことだ。名を伏せておくことに利点があるとは思えない。
「国の者であることには間違いないか」
この機に乗じて城内に潜り込んだ密偵ということも考えられる。
「その者自身は口を割りませんでしたが同じ地域から避難してきた者の証言があります。トイオラ村のアラス、戸籍とも照合が取れました」
密偵ではない。しかし素性を明かそうとしない。いったい何者なのだろう。
「他に不審な点はあるか」
「周囲の話では妻と子を野犬による被害で亡くしたばかりだそうですが、こちらについてはトイオラ村の者もそれ以上話そうとしません」
野犬は家畜や人間を襲う。それはトイオラ村のように村人の大半が農耕や牧畜に従事する地区では殊更に脅威となる。そのため発見すれば駆逐するのが一般的だ。その作業自体は各村に一任されている。人的被害が発生するまで放置されていたというのは考えにくい。
何かある。ルディオスは直感した。
「見張りを付けておけ。悟られぬようにな」




