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第三回

 婚儀を挙げずにいる以上、フェオは表向きの上でルディオスの后ではなく一国賓としての待遇を受けている。国民にもまだ正式な通知を出していなかった。それでもたちどころに民衆の知るところとなってしまうのが世の常である。

 翌朝ルディオスが部屋を出ると、廊下を気忙しげに歩いてくる一人の女中の姿があった。

「何事だ」

「ああ、ルディオス様。実は女性が一人、どうしてもフェオ様に会いたいと門前に来ているのです。それがどうも具合の悪そうな赤子を抱いておりまして・・・・・・」

 やはり来たか。

 隣国からの行列ともなれば、いくら人目に付かぬよう日没後に入城させたところで到底隠しきれるものでもない。

「フェオはどうしている」

 立場上、ルディオスとフェオの寝室はまだ別になっている。

「まだお休みのようです」

 それを聞いてルディオスは安堵した。

「そうか。この件にについて話はせぬように」

 彼女を心配させる必要はない。

 ルディオスはそのまま城門へ向かったが、目にしたのは血生臭い光景だった。

 下人が押していく荷車に、大小の荷が積まれている。一つは御包みにくるまれた赤ん坊、もう一つは女性だった。女性の服に滲んだ血はまだ新しかったが、赤ん坊の御包みは染み込んだ夥しい量の血が乾いて茶色くなり、残された縁の部分から僅かに元は生成り色をしていたことが見てとれる程度だ。女性はこの子のためにここへ来たのだろう。御包みに新しい染みがあることは注意深く見なければ分からない。

 そしてそのすぐそばに立つ衛兵の足下に出来た赤黒い染みがこの場で起きた出来事を物語っていた。

 衛兵はルディオスに気付くと、「これはルディオス様、早朝からお騒がせして申し訳ございません」と詫びた。

「構わぬ。あの者達はやはり・・・・・・」

「はい、フェオ様に会わせろと言っておりました。それで国王陛下のお申しつけの通り、あのようにした次第でございます」

 もしフェオの力を頼ってくる者があれば目立つ傷を付けずに始末し、日没後に郊外の山道に捨て置くように。

 あとは野犬に喰わせる。しかし城へ行った筈の者がそのような死に方をしていれば大方は真相を推し量る。リーデンはそれを抑止力とする方針のようだ。

「御苦労」

 ルディオスは城内へ戻った。そろそろ朝食の頃合いだ。そこへちょうどフェオと行き会った。

「おはようございます、ルディオス様」

 フェオはわざわざ廊下の端へ寄ると一礼した。これではまるで女中のようだ。

「昨夜はよく眠れたか」

「はい」

「そうか」

 城門の出来事について触れることはしなかった。

 朝食後、ルディオスはフェオに「何か不自由はないか」と尋ねた。

「はい、結構な御部屋を用意していただきましてありがとうございます」

「そうか、それは良かった。ここの生活に慣れるのも時間が要るだろう。当分の間は無理をしないように」

「はい」

 ルディオスは口にこそしなかったが、早ければ数日中にも前線から負傷兵が送り返されてくるはずだ。そうなればとても体を休める暇など無い。

「ルディオス様」

「何だ」

「書庫を使わせていただいてもよろしいでしょうか」

 予想外の申し出にルディオスは一瞬言葉に詰まってしまった。フェオはそれを見て「申し訳ありません、出過ぎたことを申しまして」と謝罪したが、何ら不都合があるわけではない。

「いや、後で女官に案内させよう」と応じた。考えてみれば国賓といっても公務があるわけでもなく、人目に触れるのを避けるために国内を見て回らせるわけにもいかない。何か退屈しのぎになるものを求めるのも当然だ。ルディオスは顔にこそ出さなかったがそこまで考えが至らなかったことを少々すまなく思った。

 何か手遊びになるものを用意させようかと考え始めたルディオスを弄ぶかのように、数時間も経たないうちに前線からの急使が城に戻ってきた。会議中であったがリーデン、ルディオス、リドニアを残して人払いがなされた。

「御報告申し上げます」

 そもそも戦況は圧倒的にこちらが有利だったはずだが、急使の顔は青白い。

「何事か」

「急襲にございます」


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