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第二十七回

 一度は治まったと思ったが、またしても口の中に血の味が広がる。さらに今まで殴られたときよりも強く地面に叩きつけられる。それでもラドはなんとか上体を起こした。立ち上がろうとしたものの、足が重石でも乗せられた様に重く動かすことができない。

 怪我をしたのだろうか。自分の足に目をやったラドは息を呑んだ。

 腰から下に覆い被さるようにしてエオーが倒れている。それだけならばたいして驚くことでもない。だが、衣服に火でも着けられたかのように背面全体にひどい火傷が広がっているのだ。

「おい・・・・・・おい、しっかりしろ!」

 声をかけてみたが、まったく反応がない。衝撃を与えるべきではないと思ったが、やむなくラドは無理矢理足を引っ張り出すようにして抜け出した。どさり、と砂袋のような音を立ててエオーの体が地面に落ちる。

 難なく立ち上がることはできたものの、その目に飛び込んできた光景にラドはその場から動くことができなかった。いままで見渡す限りに広がっていた草原が無くなり、焦土と化している。禁忌の力の被害がここまで届いてしまったのだ。幸いにもラドのいる所から背丈の分ほど離れたところまでで焦土は途切れていた。あとほんの少し国境寄りに立っていれば、エオーだけではなくラドまで巻き込まれていたに違いない。

 だが、悠長に構えている時間はなかった。また焦土が広がれば、この次は間違いなくラドも飲み込まれてしまう。一刻も早くここから離れる必要があった。

 大鷲は無事だろうか。あたりを見回すが、姿がない。だが、羽音が聞こえる。上を向くと、大鷲がゆっくりと旋回しているのが見えた。

「おーい!」

 ラドが叫ぶと、大鷲は地上へ降りてきた。

「エオー、しっかりしろ、エオー!」

 エオーは意識を失ったままだ。もっとも、この状態では意識を取り戻したところで自力で歩かせることは難しいかもしれない。

 なんとかラドはエオーを大鷲の背に引きずり上げようとしたがそう容易くはいかなかった。もとよりかなり体格の良いエオーのことなのでかなりの力が必要だろうということは予測がついていたが、想像以上だ。さらにできるだけ背中側に触れないよう注意を払う必要もあった。

 酔い潰れた仲間を家まで運ぶのにずいぶんと苦労した。そんな話を大人たちがしていたのを聞いたときは大袈裟だと思っていたが、意識のない人間を動かすことの難しさを思い知らされた。

 大鷲が状況を察してか卵を抱くときのように体を低くしてくれた甲斐もあり、時間はかかったがやっとのことで二人とも大鷲の背に乗ることができた。

「村へ戻ろう。急いでくれ」

 ラドが声をかけるが早いか、大鷲は翼をはためかせ地面を離れた。

 改めてみると、エオーの火傷はひどいものだった。豆粒ほどの火膨れができる程度なら目にしたことはあったが、ひどい場合は真紅の服でも着ているかのように皮膚が爛れてしまうということをラドは初めて知った。

 治癒魔法は効果がない。せめて水属性の魔法で冷やしてやればいいのかもしれないが、魔杖が無くてはそれすらもかなわない。

 それでもエオーはまだ息をしていた。

 せめて村に着くまでエオーが持ちこたえるよう、ラドは祈ることしかできなかった。


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