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第二十六回

 両掌、両腕に痛みというより痺れが走る。何が起きたのか判らないまま、ラドは手元に目をやった。そのときラドが目にしたのは、半分程度の長さしか残っていない魔杖だった。

 あまりのことに呆然としていると、何かがぶつかってきて地面に組み伏せられた。エオーだ。

「許さねぇ・・・・・・許さねぇぞ」

 それを聞いた瞬間、ラドはエオーを反射的に殴っていた。許さないのはこちらの方だ。

 魔杖はただの棒切れではない。魔法を使うためには魔法陣の描き方を知る必要があるのはもちろんだが、魔杖も重要な役割を果たす。もっとも、稀少で高級な材質であればあるほどよいという意味ではない。職人が修行を積むうちに少しずつ道具が手に馴染んでいくように、魔杖も使い続けるうちに発動する確率を上げたり同じ魔法陣でも高い威力を発揮させることができるようになるのだ。

 同じ魔術師として共に修行してきたエオーはすべて知っていたはずだ。魔杖がいかに重要であるかも、ラドが今までずっとこの魔杖を使ってきたということも。他人の描いた魔法陣を踏み荒らすのも非道な行為だが、魔杖をへし折るというのはその比ではない。

「よくも・・・・・・!」

 一方、エオーはラドに殴られた程度ではびくともしていない。ラドを組み伏せたまま、「知るか」と呟いた。

「お前を倒すためだ」

 そこでやっとラドは今の状況を思い出した。魔法は使えない。エオーの魔杖を奪い取ったところでそれを使えるわけではない。かといって、肉弾戦ではまず勝ち目がない。

 万事休すだ。

 とにかく抜け出さなければならない。無我夢中で暴れるうちにたまたまこちらの膝が入ったらしく、エオーが呻き声を上げて腹を押さえた。その隙になんとか這いだして立ち上がる。

 対してエオーはまだ四つん這いの体勢で腹を押さえたままだ。それを見ると少し躊躇ったが、意を決してラドは小石を蹴飛ばすときのように一度片足を後ろへ振り上げた。

 しかしその僅かな躊躇がエオーにとって好機となってしまった。片足が地面から離れたということは、当然体重を支えているのは軸足となっているもう一本の足だけだ。ラドの蹴りが命中するよりも先にそこを目がけてエオーが飛びつくように組み付いてきたので、派手に転ぶ羽目になる。すぐさま立ち上がったが、そこにはすでに拳を構えたエオーがいた。かわす間もなく左頬に拳を叩き込まれると同時にラドは吹っ飛んだ。

 しかし、そのときはまだ気付いていなかった。吹き飛ばされた原因は拳の勢いだけではないということに。


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