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第二十四回

 ひとまずフェオを椅子に座らせると、ルディオスは「どういうことだ」と問いかけた。「新たに現れた魔術師は、国境地帯を越えてきたことから我が国の者でないことは確かです。ですが先の魔術師に追いつくなり、こちらに近づくのではなく押し倒し、そのまま殴り合いを始めました」

 それを受けて臣下の一人が「手柄の奪い合いでしょうか」と発言したが、どうも腑に落ちない。

 そもそも援軍が魔術師一人だけというのも妙な話だ。本当に攻め入ってくるのなら他にも剣士、状況によっては騎馬隊なども含めたそれなりの軍勢になるはずだ。

「おそらく、サルテオの軍は動いていまい」

 その言葉に、一同の視線がルディオスに集まった。年嵩の臣下達はルディオスと同意見らしく頷いているが、若手は合点がいかぬといった表情だ。

「もしサルテオが戦をするつもりであれば、フェオの話が出た時点でこちらに進撃していたはずだ。仮に当時は兵力を蓄える途中であったとしても、これほど短期間ではそう多くの増強は望めまい」

「では、あの魔術師達は何者でございましょうか」

「おそらくごく一部の民間人が国政とは無関係に動いているのだろう」

 民衆は、必ずしも国が決定した内容に従うとは限らない。

「しかし、同士討ちというのは・・・・・・」

「おおかた戦に賛成せぬ者が後を追ってきたのであろうな。何にせよ、統率が取れていないのであれば崩しやすい。ロドナ、ラクミアン、お前達は書庫へ行って過去に同じような魔法が使われていた例がないか調査にあたれ」

「はっ」

 二人は短く返事をすると即座に部屋から出ていった。

 ここでルディオスはフェオに目を向けた。すっかり顔から血の気が失せている。

「フェオ」

 呼んではみたものの、反応がない。何度か繰り返し声をかけるうち、やっとこちらに顔を向けた。

「動けるか」

 フェオは絞り出すような声で「はい」と答えた。

「屋上に来てくれ。私も行く」

 それを受けてフェオは「わかりました」と立ち上がろうとしたが、足に力が入らないのかその場で転んでしまった。すぐさま周囲の者が手を貸そうとしたが、「大丈夫です」と自力で立ち上がった。

 二人は部屋を出た。フェオは落ち着きを取り戻したのか、それとも気を遣わせまいとしているのかはわからないが、足をすくませることもなく歩調を遅らせることもなくついてくる。無理矢理手を引いていくようなことをする必要はない。それでもルディオスはずっとフェオの手を握っていた。その手は土の小瓶を渡したあのときよりもずっと冷え切っている。

 屋上には二人の見張りを立てていた。一人は遠眼鏡を覗いているためこちらに背を向けていたが、もう一人はルディオス達に気付くと敬礼した。

「何か動きはあったか」

 遠眼鏡を覗いていた見張りは、「魔術の応酬を始めたようです」と答えた。

「貸して下さい」

 飛びつかんばかりの勢いでフェオが見張りの元へ駆け寄る。見張りに替わって遠眼鏡を覗いたフェオは、「先に来たのは、どちらの魔術師ですか」と問いかけた。

「緑のローブを着けたものです」

 こちらからフェオの顔を直接見ることはできない。しかし、どことなくそれを聞いて肩の力が抜けたようにルディオスには見てとれた。

 だが、それも束の間のことであった。フェオが小さく「あっ」と叫び声を上げた。

「どうした」

「ラドが・・・・・・後を追ってきた魔術師が、杖を折られました」

 こちらを振り向いたフェオの表情は、不安に駆られたものに戻ってしまっている。

「持ち場に戻れ」

 指示を出された見張りと入れ替わりにこちらへ戻ってきたフェオは花がしおれたように俯いていた。

「他にサルテオ側から来る者はあるか」

 見張りは「今のところその様子は見られません」と答えた。

 それならば攻め入ってきた魔術師を加勢する者もない。だが、杖を折られた魔術師を助ける者もない。魔術師の進撃を妨げるものはなくなってしまった。

「見張りを続けろ」

 そう伝えると、ルディオスはフェオを連れて屋内へと引き返した。


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