第二十一回
鷲の羽音は耳につく。それが大鷲ともなれば尚更だ。エオーがこちらを振り向いたが、そのときすでにラドは至近距離まで近づいていた。
「エオー!」
「ラド?」
大鷲の着地を待たずにラドがその背から飛び降り、エオーはその下敷きになる形で組み伏せられた。
「ぐっ・・・・・・」
エオーが呻き声を上げる。すでに高度は地面のほど近くまで下がっていたが、それでもかなりの痛手のようだ。
怒りにまかせて押さえ込んだまま離そうとしないラドだったが、後方から響く轟音で我に返った。一刻も早く、エオーを連れ帰らなければならない。
「エオー、村に帰るぞ。そいつに乗るんだ」
ラドがほんの少し力を緩めた。しかしエオーは「誰が帰るか!」とラドをはね飛ばした。元々腕力の差は歴然としている。その勢いで背中を地面に叩きつけられる格好になり、今度はラドが呻き声を上げた。
叩きつけられた瞬間は猛烈な痛みを感じたが、幸いにもどこかを痛めたわけではないらしくそのまま起き上がることができた。
「お前、いったい何考えてるんだよ。森まで焼いて、禁忌も破って」
ラドが問いかけると、エオーは「決まってるだろ」と答えた。
その表情に、ラドは背筋が寒くなった。いままでエオーと小競り合いになったことは何度もある。殴られて怪我をしたことも数え切れない。それでもエオーに対して恐怖を感じたことは、これまで一度も無かった。しかもいま感じている恐怖は怪我や痛みに対する類のものではない。それは見たこともない凶暴な魔獣を目にしたような、そんな感覚だった。
「イスをぶっ潰す」
「馬鹿言うな! 戦争になったらどうするんだ」
「ラド、お前耳腐ってんじゃないのか? 俺は戦うじゃなくて潰すって言ったんだぜ」
いつもなら、エオーにこのような暴言を吐かれたときにはまず間違いなくラドは激昂していた。しかし今回は怒りよりも得体の知れない恐怖が勝っていた。
「それにしてもすげぇよな。一瞬であれだけの土地が真っ黒焦げだ。先生も人が悪いよな。隠そうとしてたってことは、こいつの力を知ってたってことだろ? これならイスだって、その気になれば世界中だって潰せるぜ」
エオーの言っていることはおそらく正しい。何せ、遙か昔には完全に劣勢であった戦局を一挙にひっくり返した力なのだ。
「じゃあ、フェオはどうなるんだ。向こうにはフェオだっているんだぞ」
フェオの名が出ると、エオーの表情は一段と冷たさを増した。
「あいつも道連れだ」




