第十九回
事態は一刻を争うため、徒歩でエオー追いかける余裕はない。それに、延焼が進むと徒歩で戻ろうにも道が無くなることも考えられる。そのためニイドが呼び寄せた大鷲の背に乗って、ラドはイス国へ向かっていた。
ラドは小さな頃から魔術師を志して修行に励んできた。体が大きくはないためエオーのような同じ年頃の少年と並ぶといつも見下ろされるような形になってしまうのでそれを悔しく思うことも決して少なくなかったが、それすらもばねにして人一倍努力してきた自負と、魔術では他の門下生に負けないという自信があった。だから、ニイドから特命を受けるということはラドにとってこの上ない名誉のはずだ。しかし、こんな形でそれを受けることになろうとは。ラドの胸を支配していたのは誇らしさではなく村とフェオの命運に対する不安、そしてエオーに対する怒りであった。
おそらくエオーは大地が焼けたままになることも、被害が拡大していくことも知らなかったに違いない。ただフェオを連れ去ったイス国が憎い一心で、イス国でのフェオの立場など考えてもみなかったのかもしれない。村を焼き尽くすつもりも無かったのかもしれない。
それでもラドはエオーを許せなかった。
大鷲の背では地揺れを感じることはなかったが、音はいやでも耳に入ってくる。サルテオの方角からは聞こえてこないのがせめてもの救いだった。
地表はよほどの高温になっているのだろう、上空でも熱気が感じられるほどだ。しかし極端に高度を上げてはエオーの姿を見つけにくくなる。暑さを堪えながらラドは目を凝らした。まだそれほど遠くへは行っていないはずだ。
やがて、焦土と草の茂った場所との境が見えてきた。国境にあったはずの検問所は見あたらなかったが、もうイス国に入っているはずだ。おそらくエオーが焼き尽くしてしまったのだろう。このあたりにはまだ村はないらしく、草原が広がっている。
ラドが目を凝らすと、前方に人影があった。さらに近づいてみる。見覚えのあるローブと、魔術師よりは軍人を思わせる頑強な体格。間違いなくエオーだ。まだ距離があることもあってか、こちらに気づいた様子はない。
「あいつの所に降りてくれ」
ラドの言葉に応えて、大鷲は高度を下げ始めた。