第十二回
話を聞いたフェオは安堵した微笑みを浮かべた。
フェオ本人の希望を受けて、今では部屋の調度品は旧来の領土で生産された品に統一されている。その甲斐もあってか、以前と比べると表情にも明るさが出てきた。
「フェオ、ずっと部屋にいるままでは退屈だろう。何か望みはないか」
フェオはしばらく考えるふうであったが、「この国のことをもっと学びたいのですが」と答えた。
ルディオスはリーデンの元へ行くと「父上、ひとつ提案があるのですが」と切り出した。
「何だ、申してみよ」
「フェオのことなのですが、あの通りほとんど部屋に籠もったきりです。今はまだ国賓という扱いですが、行く行くは王族となる立場ですし、この国について教養を身につけさせたいと思います。このような時勢ですし城外へ視察にやるのは難しいかと存じますが、教育係の手配と城の中を見せて回ることは許していただけますでしょうか」
城内を見せて回るというのはルディオスの発意であったが、実際のところ教育を受けさせることははリーデンやルディオスの希望とも一致していた。現時点では扱いが王族ではなく国賓であるため、また兵の治療を優先させるべくフェオの時間的拘束を避けるため、実際の教育は終戦後に予定されていたのだが、教育を受けさせるのであれば早いに越したことはなく、今となっては治療に時間を割かせることもほぼ無いものと見込まれている。
教育係を付けることはリーデンにしても特に不都合は無かったのだろう。間を空けずに「良かろう」と回答があった。しかし「ただし、城内を歩かせるときは必ず一人にせぬように」と続けた。それがフェオを思いやるのではなく監視する意味合いであることは、改めて言うまでもなかった。
「承知しました」
「随分と肩入れするようになったな」
ルディオスがフェオの元を毎日訪れていることも含めての発言なのだろう。ルディオスは気恥ずかしさを見せるでもなく「自分の伴侶ですから」と答えた。
リーデンは「ふむ」と言って満足そうに顎髭を撫でている。
そのときだった。
リーデンが突如その場に頽れた。
「父上?」
ルディオスが声をかけるも、リーデンは床に倒れ込んだまま身動き一つしない。
「父上!」
「ルディオス様、いかがされました」
騒ぎを聞いてすぐに何人かが駆けつけたが、その光景を目の当たりにして立ち尽くした。
「至急侍医を呼べ。それから、父上を寝室へ」