第十回
陽光のためか、フェオは目を少し細めている。それを見てルディオスは、輿入れ以来一度もフェオが外へ出ていなかったことを思い出した。
衛兵が二人に気付いたが、ルディオスが同伴しているとわかるとただ敬礼するのみであった。実は監視こそ付けていないものの、フェオを城の外へ出さぬようリーデンが衛兵に指示を出していたのだ。フェオ自身も外出を希望することは無かったが、そうした空気は知らず知らずの間に伝わり彼女に無理をさせていたのだろうか。
その疑問を口には出さぬまま、回り込むように城の裏手へ歩みを進めていった。フェオも言葉を発さないまま後から着いてくる。
城の正面は陽当たりが良かったが、裏手に回ると打って変わって暗くなり陰鬱とした雰囲気を醸し出している。その中を数歩進むとルディオスは足を止めた。そこにはルディオスの胸ほどの高さがある石が置かれている。石碑のように見えないこともないが、碑文などは刻まれておらず、形が整えられているわけでもない。
「これは?」
フェオの問いにルディオスは短く「墓標だ」とだけ答えた。
やや間があって、「これまで戦で命を落とした者達のために、私が建てたものだ」と言い添えた。
フェオは屈み込むと不思議そうにそれを眺めている。無理からぬことだ。そこには戦没者の名も弔いの言葉も無いのだ。
ルディオスも並ぶようにして膝を着いた。
「ルディオス様!」
慌てたようにフェオが声を発した。王位継承者ともあろう者が膝を着くなど、通常ではあり得ない。しかしルディオスはその姿勢のまま片手でフェオを制した。
「彼らを国葬にするでもなく、石に名を刻んでやるでもなく、私はただこれを置くことしかできなかった。その程度で王位継承者など、名ばかりにもほどがある」
ルディオスは目を閉じた。暫くした後につと目を開くと、立ち上がってフェオのいる方へ向き直った。
「フェオ」
「はい」
フェオは心境を掴みかねているのか怪訝そうな表情のままルディオスの顔を見上げている。ルディオスは右手を差し出し手を取らせると、軽く引き上げて立つように促した。
「いつか私がこの国を治めるときには平和な国にできるよう、私に力を貸してくれ」
フェオは目を見開いた。そして、「私でお役に立てるのでしたら、光栄です」と微笑んだ。