第7話「動き始めた勘違い」
「『ベースゲートオープン』」
ルルの言葉と共に幻想的な青白い門が現れる。転移先は精霊の森だ。見るのは2回目だがやはりかっこいい。
「それじゃ、ケイオスさん。いきましょう!シンク、いってきますね!ボスも後でまた!」
「いってらっしゃい!」
「おう、びしっと頼んだぜ!」
軽く抱擁を交わすルルとシンクちゃん。絵になるとはこのことだ。
軽い疎外感を味わいながらも紙にいってきますと書き二人に見せる。
「み―――ケイオスもいざと言うときはルルを頼むな。お前の戦闘力はギルドの中でも間違いなくトップクラスだ。だからこそ下手な行いはやっかみを買うこともある」
「ケイオスさんはかっこいいから大丈夫だよ!俺の頭なでてくれるし」
顔を赤く染めなら笑うシンクちゃん。そういってくれるのはものすごく嬉しい。
嬉しいが―――瞬間二人の目線が若干きつくなったのは気のせいではない。
「……まぁ売られた喧嘩は買いまくれ!お前の場合安売りする必要なんざない。それほどの実力だ」
「そうですね。ケイオスさんはもっと自信をもっていいと思います!」
「(なんかすっごい照れます。)」
「褒めてるからな。クヒヒ」
「ふふふ―――それじゃ、ボスにシンク、改めて行ってきます!」
―――ギルド潜入始めますか!
精霊の森に移動後、ルルと雑談しながら街へと進む。
いつものルルとは違うため、いつもよりちょっと緊張している。
変装のため、赤髪のショートカットではなくロングのポニーテールの銀髪の美少女になり、俺の前を歩いている。目線がお尻に行ってしまうのは男の性だろうか。
「いよいよ二人っきりになっちゃいましたね」
「(!?)」
「緊張してるんですか?咄嗟にびっくりを紙に書くなんて器用ですね。ふふっ、でも一度ちゃんと言っておかなきゃと思いまして」
一体何をどうしたらこんなかわいい女の子から二人っきりになっちゃいましたねなんて顔を赤くしながら言われるのか。これもう……告白しかないか。
「あの時、見ず知らずの私を助けるために飛び出してくれて、そのままボスも助けてくれて、本当に感謝してます」
あの時―――シルバーレギンの分身体を倒したときか。
「あの時って準備不足で本当に危なかったんですよ?あのままアジトに行って、こうやってお礼を伝えるタイミングのがしちゃったんですが、私……英雄って本の中の存在だと思ってました」
「―――でも、私にとってはみりんさんが英雄でした。ありがとうございます。なんて、照れちゃいますね」
「(すっごい照れてます。)」
「だからこそと言いますか。あんまりへこへこしたみりんさんは見たくないんです。ギルドって結構荒れてる人も多いですけど、ビシッと構えててほしいかなって」
「(やるときはやる男なんでお任せを!)」
「ふふふっ、もう。期待してますよ!じゃあ行きましょう!ケイオスさん!」
そのまま気持ちルンルンで、ものすっごい甘酸っぱい会話をしながらルキス町と向かいました。
見えてくるルキス町。AAOの中でよく見ていた風景ではあるが、コンクリートのようなものでできたレンガが積み重なり家が、地面が、壁が作られている。いったい何をどうすればこれほど均等なレンガで町を作ることができるのか。
「(このレンガ?のようなものすっごい均一に作られてますね。どうやって作っているんでしょうか?)」
「はい!大賢者アギルドが大賢者と今になっても呼ばれている所以ですね。単純なものならば注ぎ込むマナの量に応じて同じものを複製する『賢者釜』。これを作ったのが大賢者アギルドです。これがないと生活は一気に不便なものになってしまいますからね」
「(そんなものが……ありがとうございます。)」
「いえいえ!でもあんまり他の人にこういうこと聞いちゃだめですよ!聞くなら私かボスだけでお願いしますね!」
「(そうですね、わかりました!)」
ルルに聞いたこれはこの世界じゃ一般常識に含まれるものなのだろう。人差し指を出しながらめっと言いそうなルルを見て和むも、気をつけねばなるまい。
だが、一つ疑問が解消され、少しすっきりした気分である。
アジトの中の食器類や小物も恐らく『賢者釜』を用いて複製されたものだろう。
そしてやってきましたギルド。打ち合わせをしているとはいえ、声を出すことができないため、ルルの後ろに続いて入る。
ガラの悪そうな奴らもいるんだろうなと思いながら周囲を見ると、やはりガラの悪そうな奴らがいる。
逆にしっかり身だしなみを整え、何かの話し合いをしているパーティまで、様々な人がいることが分かる。
一番目立っているのは全身赤のフルプレートで身を積み、窓から外を見ている人である。何かしきりに頷いているが、大丈夫だろうか。
町中でも思ったが、意外と鎧を着ている方々がいて、あまり悪目立ちしていない用で少し安心である。
受付の人は女性の方が多く。中でも俺たちが並んでいる列の受付をしているのはダブルメロンといえるほどの巨乳なお嬢さんだった。
兜を被っているからどこを見ているか外からでは分かりにくいため、凝視し放題である。
「こんにちは!冒険者の登録をしに来ました」
「はい。こんにちは!じゃあこちらの紙に情報を書いて下さい」
―――なんてやり取りを終え、あっさりなってしまった冒険者。
Class-Gと書かれたプレートを渡される。
裏には名前が書かれており、再発行にはランクに応じた手数料がかかるらしい。
Gクラスからのスタートとなり、最高ランクがSS。山狩りに召集されるのはおそらくCランク以上からのため、それまでにランクを上げる必要がある。
いよいよ依頼だワクワクするぜー!と思っていたらちょっと席外しますねとどこかに行ってしまったルル。ちょっと顔が赤い気がするが大丈夫だろうか。
ただ待っておくのも暇なので、人が多いところに進むと掲示板のようなものがあった。
見に行ってみるとどうやら依頼を載せている掲示板の様だ。
推奨ランク:A 報酬100,000Gold~300,000Gold
キングゴブリンの討伐
最近精霊の森の奥地でゴブリンの異常繁殖が確認されている。恐らくキングゴブリンに成長したゴブリンがいるためと思われる。至急調査、調査中ゴブリンの間引きとキングゴブリンの討伐を求む。報酬は成果により応相談。
推奨ランク:C 報酬1,000Gold~
薬草採取ポイントの調査
最近薬草の生育場所が変わってしまったようである。こちらで用意する地図に採取ポイントを書き込んでいってもらいたい。その場で生えている薬草は採取して持ち帰ってくれれば、そのまま1草50Goldで買取を行う。
推奨ランク:- 報酬100Gold~
荷物運び
倉庫整理のため、腕に自慢のある力持ち求む。
依頼と言っても色々あって目移りするが、報酬額がピンからキリまである。キングゴブリンの討伐最大30万Goldなんて、この世界なら半年くらい暮らせる金額である。街中で見た宿屋の看板が1泊100Gold。3食付きで150Gold位だったため、家持ならさらに長く豪遊できそうである。
現実世界の俺の手取りが30万ほどだったことを考えると非常に魅力的な案件である。
「おい」
―――ん?
横を見るとガラの悪そうな一味の一人が俺の横に立ち睨んでいた。
さっそく1エンカウント!って考えてる場合じゃないな。
くっ、こんな時に限ってルルがいない…。
紙に何か書こうにも、その間に絡まれそうである。
「無視してんじゃねえよ。お前だお前。黒鎧のお前。新人のわりにゃずいぶんいい鎧纏っていい女もつれてるじゃねーか。新人のお前にゃもったいねーから俺たちがもらってやるよ!」
「そうそう。俺たちはCランクのベテランだからな。しっかり稼げるしな」
再び追加されたガラの悪そうな人その2。というか俺の世界に来てから男に対して厳しくなっている気がする。
「あん?ビビッて何も言えないのか?」
「だったらなおさら俺たちがさっきの女をパーティーにいれてやるよ。お前は荷物運びでもせっせとしてな」
「どうせぼんぼんのお坊ちゃんなんだろ?ぴかぴかのフルプレートなんて笑っちゃうぜ。さっきの銀髪のお姉さんには坊ちゃんより俺らがお似合いだ」
フルプレートが新品だからなおさら坊ちゃんに見えたのだろうか。それにしても、裏路地でとかならまだ分かるが、こんな人がいるところで絡んでくるか?いや、日本の常識がこの世界じゃ常識じゃないだけか。こいつら酒臭いし。
自分が言われるのだけなら結構耐性があるほうなんだが、ルルを引き合いに出されると、イラつくな。
「聞いてんの「ハハッワロス(くさっ)」」
「なっ、てめえ笑いやがったな!?」
「ハハッワロス(こっちもくさい!?)」
「こ、このやろう!」
こちらに酔っぱらったガラの悪い男が近づいてきたせいで、思わず声を出してしまった。
ふざけやがって!っと俺を殴ろうと振り上げた手を手を止めたのは、―――礼儀正しそうな金髪の青年だった。
「さっきから見ていたけど、君たち悪酔いしすぎだね。強者が弱者を食らうのはわかるが、それは魔物に対してだけにしてくれないかな?」
「ス、スバルシュ!?なんでてめえが出張ってくるんだ!関係ねーだろ!」
「新人の手助けをしてあげるのが高ランク冒険者の務めだろ?」
なるほど。俺は弱者に見られているのか。ガラの悪い奴らからも、金髪の―――スバルシュからも。
こうやって怒りを抱くのは努力もしていないのに力を手に入れた俺の傲慢だろうか。
冒険者になったばかりでのランクが低いからかそう見られているのか。
―――売られた喧嘩は買いまくれ!お前の場合安売りする必要なんざない。
―――ビシッと構えててほしいかなって
そんなことを言ってくれる女の子がいるのにへこへこなんてしていられない。
手でスバルシュを制し、前に出る。えっ?って顔してるが無視をする。
といってもこちらから手を出すのはまずい気がする。向こうから手を出してもらわねば。
「へへっ、こいつもスバルシュの手助けなんていらねえってよ!一回地べたをはい回りな!」
そういって再び俺を殴ろうとした手を横によけ、見様見真似の合気道で逆に地べたに打ち付ける。
加減を明らかに間違え、べぎゃっと骨が何かなったような音と共に地面に叩きつけてしまった。
「うっ、いてぇえ、いてぇええよおおおお」
「ああああ?なにしてくれてんだてめええ!」
「き、きみもちょっと落ち着き給え!」
やばいやり過ぎた―――と思う間もなく二人目のガラの悪い男が殴りかかってきたので今度はかなり手加減して地面に叩きつけた。が、男は叩きつけられる直前で受け身をとり、ケガした男へと近づいて行った。
「こいつやべぇ……!一旦出るぞ。おい!我慢しろ!」
「いてぇ、いてぇえよう」
周りを巻き込んでまだまだ騒ぎになるかと思ったが、そのままガラの悪い男その2がその1を背負ってギルドから出て行った。周囲の人間はこちらを見ているが、ひそひそ話しながらこちらにかかわってくる様子はない。
「これは……。いや、すまなかった。僕が間に割り込む余地など無かったようだ。新人だと思い庇ったのだが、十分な実力者の様だ。良かったらな「ケイオスさん!」」
「ちょーっとこっちでお話ししましょう!あ、すいません。借りていきますね」
「え?あ、あぁ」
途中から様子を見ていたのだろうか。そのままルルにドナドナと外に連れられて行った。
―――◇◇◇
「ケイオスさん、びっくりしましたよ!いきなり大注目じゃないですか!」
「(ごめん。まさかいきなり絡まれるとは思ってなくて)」
「……そうですね。でもあれでケイオスさんのことはギルドで噂になるでしょう。悪目立ちというのはあまり良くないですが、悪目立ちしても凄腕だと認識されれば依頼が向こうから舞い込んできますからね!結果として成功です!」
「(ありがとう?)」
「いえいえ!やっぱりケイオスさんは強いんだなって改めて実感しました!」
となるとやはり途中から見ていたのかな。かまをかけてみるか。
「(どこから見ていたんですか?)」
「あれ?……いやー……あはー。あはは。最初からです……てへっ」
言い訳をせずに、どこか遠い方向を見ながら答えるルルに軽くチョップをくらわせる。
「あはは、すいません。正直に言いますと1カ月でギルドランクをCまで上げるって結構難しいんです。それなら普通のやり方じゃダメだなと思いまして、誰かが絡んでくれるのを待ってました」
「(なるほど。それならそう言ってくれればいいのに……)」
「ちょうどお手洗いに行ってる最中に思いついたので、ごめんなさい」
しゅんとしてるルルも可愛くて速攻許しちゃったのは世界の理に違いない。
―――◇◇◇
最初の内はルルとパーティーを組まず。俺だけで依頼を受け、達成していく。
依頼は3つまで同時に受けることができ、パーティーリーダーのランクによって受けれる依頼のランクが決まり、自分のランク+1まで依頼を受けれるようである。
ルルのランクがCランクのため、俺がDランクになるまではルルは俺の補助で、すべて俺一人でやったという事にするらしい。
「じゃあ、ケイオスさん。これとこれとこれを受けましょうか」
「(分かりました!)」
「Fランクの依頼の討伐はギルドが冒険者に経験を積んでもらうために、報酬は安いですが、比較的弱い魔物の討伐を依頼しているものが多いです。Fにあがるまではこれを受けていきましょう!」
ルルが持ってきた依頼はミニボア討伐。らびたん討伐。ミニスターの討伐だった。
ミニボアはウッドボアより小さいイノシシみたいなの。
らびたんはうさぎっぽいのを不細工にしてさらに二足歩行にした良く分からない生物。
ミニスターは川付近に出るヒトデみたいな魔物である。
そしてそれから2日間。依頼を受注し、達成する日々が続いた。
「ケイオスさん、あそこです!」
「ハハッワロス(りょーかい!)」
『突進』で加速し、そのまま体当たり。魔物は吹き飛んで死ぬ。
ダメージ倍率自体は少ない『突進』を手加減しながらでもこのクラスの魔物だと一撃で死んでしまうようである。最初手加減なしで『突進』したらぶつかった瞬間破裂して思わず吐きそうになった。
ふと鎧を見てみると、わずか2日でぴかぴかのフルプレートに小さい傷があっちこっちについており、凄みを出し始めている。
そして3日目は『突進』を使わずに『縮地(仮)』で踏み込み一刀のもと両断していっている。
最初はまだ多少抵抗の合った討伐も、数をこなすうちに何も考えず魔物を殺すようになっていた。
今日の夕食なんだろうだなんて考えながら殺しているあたり、この世界に染まってきたようである。
そしてついにギルドに報告に行った際、ランクが上がることが決まった。受付はいつもご利用させてもらっているダブルメロンさん。アイリスさんと言うらしい。今日はなんか茶髪のロングヘア―に艶がある気がします。
しかしこちらのアイリスさん。なんか徐々に懐かれている感じがする。
最初は完全なお客様用言葉だったのにわずか3日で変わってしまった。
全く話していないし、依頼の受注と報告をアイリスさんでしているだけなのだが。
「クロウさん。毎日毎日すごいペースですね。では達成値見て行きますね……。やりましたねクロウさん!ランクアップです!私の知る限り、クロウさんが最短でFランクに上がりましたよ!おめでとうございます!」
「……ごほん。今日をもってケイオス・クロウさんのギルドランクをFランクへと昇格致します。これによりEランクの依頼まで受けられるようになりました。今後ともルキス町のギルドをご活用ください」
「……」
「あれ?……(聞こえてないのかな?)……おめでとうございます!」
「……」
「……あれ?」
ごめんなさい。ものすごく聞こえてます。
アイリスさんからのお褒めの言葉を、喋れないという事は伝えない設定なので無言で貫き通す。
いつもはルルがいるので会話じゃないが会話になっているのだが、ものすごく空気がいたたまれない。ルルはどこにいったのだろうか。以前ガラの悪い奴らにルルも目を付けられていたので心配である。
ひとまず全身全霊を込めて礼をする。
「そ、それじゃあこちらが新しいプレートになります。Fランクになりましたので、もし無くした際は再発行に500Goldかかります。無くさぬようにお気を付けください」
「ハハッワロス(ありがまったー!?)」
「!?」
ついありがとうと反射的に言おうとして、「ハハッワロス」を出してしまった。
くっ、受付のお姉さんが若干涙目になっている。一体どういうふうに受け取られたんだ―!?
ぐぬぬ。どうすれば……成功するか分からないが、このまま去っていくのも居たたまれない。
あまりおかしくない程度にこの場を乗り切るにはこれがいいはずだ。シンクちゃんにしたことを思い出せ!
―――ぽん。とアイリスさんの頭に手を載せ、ポンポンする。
「うぇい!?」
瞬間頭がゆでだこのようになったアイリスさんが爆誕した!やったね!
そのまま頭をなでなですると「うきゅう」と言いながらシンクちゃんがそうだったように目を細めて気持ちよさそうな顔をするアイリスさんがそこにいた。
―――って何やってんだ俺はー!?どこのナンパ師だ!?
ここは戦略的に撤退するほかない。手を戻し「―――ぁ」物欲しそうな変な声出さないでくれえええ。
受け取ったプレートを首から下げ、依頼掲示板に足を進める。
「お、おい!そ、そこの黒鎧。お、お、お前、俺のアイ、アイリスちゃんにいきなりなにやてっでんだよお!」
言ってることはごもっともで反省するしかないが、どもりまくってるぞ。
しかも俺のアイリスちゃん?彼氏か何かだったのだろうか。それは大変申し訳ないことをした。
振り返って声の主を見てみるが、いや……ないな。
軽装の上からでも分かるたるんだ脂肪。見事な4重顎。汗と油でぎどぎどになっている髪。推定年齢40歳くらい。
言っちゃ悪いが、こいつがアイリスさんの彼氏のはずがない!(確信)
「お、おまえだ。俺のアイリスちゃんにてえ出しやがって」
「コーデルさん違いますよ!それに私はあなたの彼女でも何でもありません!」
「う、うそだ!昨日だって、一昨日だって、いつもお疲れ様ですって笑いかけてくれたっ!Bランクに上がったとき、これからもよろしくって言ってくれた!!」
「それがお仕事だからです!」
「う、うそだうそだうそだ!アイリスちゃんは俺のだ!俺の、俺のだ!」
「ちょっとお前おちつきなぶぁ」
コーデルを止めようとした隣の受付に並んでいた人が殴られ、鼻血を出しながら倒れる。
椅子に座っていた冒険者たち数人がこちらへと、恐らくコーデルを止めるためにやってくる。
「近づいてくるなよ!じゃ、邪魔スンナ!お、俺のだ!『俺のだ!!』」
―――!
これは何かのスキルか!?体が固まっている。
アイリスさんに向かって歩を進めるコーデル。
アイリスさんは恐怖からか涙を流し、「ぁ……」と息を吐きながら固まっている。
奥のギルドの人たちもアイリスさんの真横の受付の人も、近くまで来ていた周囲の冒険者も硬直している。
原因は俺にあるのだし、猶更俺がいかねばなるまい。
「ハハッワロス(うご……いたぁあああ)」
一歩進み、アイリスさんとコーデルの間に割って入る。
びっくりしたが、さっきのは『咆哮』みたいなスキルだろうか?
大型の獣やドラゴンタイプのボス系モンスターが使ってくるスキルで、範囲内のプレイヤーの動きを一時的に止めるものだった。
「な、なんなんだよおまえ!なんで動けるんだよ!『じゃまだ!!』」
「ハハッワロス(うるせー!)」
再び一瞬だけ体が硬直する。が、周囲の連中より俺の回復だけ明らかに早い。
コーデルは剣を抜き、俺に向かって切りかかってきている。
『咆哮』を回避する手段はゲーム内では一つだけ。
「『死ねぇ「ハハッワロス(スキルキャンセルすればいいんだよ!)」」
動きを取り戻すと同時に『咆哮』されるよりも早く『ステップ』で胸元に進み、顎めがけて掌底をブチかます。
加速したスピードを載せた掌底はコーデルの顎を完全に打ち砕く。勢いは止まらず、そのままコーデルをギルドの壁へと吹き飛ばしていった。
……死んでないよな?うん。ぴくぴく動いているので大丈夫の様である。
「ハハッワロス(なんか疲れた)」
―――瞬間、歓声が上がる。やるじゃねえかお前。かっこよかったです。Fランクどころじゃねえな!などなどあっちこっちから歓声が上がり始める。
それらの歓声を無視しアイリスさんの目の前に移動する。この感じは悪くはないが、苦手である。
そしてなぜか静かになる周囲。
「……ぅ。ううう。ううううう」
ひとまずアイリスさんがこちらを見ながら涙を流していたので、再び撫でることにした。
「あ、ありがどうございまず」
撫でる。撫でる。ただ撫でる。半場自らが作り出した状況ではあるが、誰かここから救い出してほしい。
うっとりとしてきたアイリスさんを眺めていると隣の席の受付のお姉さんが、ありがとうございましたとアイリスさんを抱きしめながら別室へと入っていってしまった。
その場に取り残され、後始末どうしよう。一旦外に出ていいのかなと考えていると。
「ケイオスさん!カッコよかったですよ!」
そう言ってルルが何故か胸を当てるかのように腕に抱き着いてきた。しかしどこか怒っているような感じもする。
今の今までこんなことは一度もなかったというのに、どういう事だろうか。周囲に俺をアピールするためか?
再びざわめく周囲。そりゃー顔も分からないフルプレートマンに美少女が腕組んでくればざわつくよな。
このままここに残ればまた何か起こる気がすると直感したので、途中間に止めに入ってくれた男の手に腰に差していたポーションを持たせ、他の後始末を放棄し、そのままギルドの外へと出て行った。
―――◇◇◇
外に出てそのまま借りている宿屋に移動し、腰を付ける。
宿に戻ってきたので、兜をとり、頭を回して空気を顔中に取り入れる。ひんやりとした空気が顔を冷やし、高ぶっていた熱を冷ましてくれる。
「すごいことになっていたのでびっくりしました。今のはさすがにギルドから恩赦が出ると思います。ギルドの中で、しかもギルドメンバーに喧嘩を売ってきた相手を吹っ飛ばしましたしね」
「(まさか、今回の件はルルが?)」
「え?ええ?いえいえ違いますよ!完全なる偶然です!ちょっと情報を仕入れに行っていただけですよ!」
「(ごめん。もしかしてとか思っちゃいました)」
「あはは、ガラの悪そうな人たちに絡まれたとき観察しちゃってましたからね。しょうがないです」
選択肢を間違ってしまったか。しゅんとしてしまったルルをどうにかしなければ。
ひとまず人と話す時はルルがそばにいてくれないと困るし、心配した旨を伝えようと紙に書き出して渡す。
「(でも、いきなり俺の前からいなくなるのはやめてほしい。俺のそばにいてほしい。すごく心配だ)」
「うひゃい!?」
何故か顔を赤くし、紙とこちらを交互に見てくるルル。可愛い顔でそんな凝視されたら照れちゃうぜ。
ルルが固まってしまったので、ルルに渡した紙を渡して貰おうと手を伸ばすと―――ビクッ。伸ばすと―――ビクッ。
「ハハッワロス(どうした?)」
「あ、いえ、あはは、なんでしょうね?それじゃ今日は情報をまとめますので、これで寝ましょう。また明日です!」
そう言い終わるとバタバタと部屋を出ていき、隣のルルが借りている部屋へと入っていってしまった。
紙ごと持っていかれたが、どうしよう。
まぁ、今日は寝るだけとなったので、無理に取りに行かず食事とお風呂済ませたらこのまま寝るとしよう。
最初の方の話が説明主体になっているので徐々に修正していくかと思います(*ノωノ)