歓迎会へのご案内
「いやーん。かわいーい。すべすべー」
だらしない顔でリンドブルムを撫でまわす寮長。困った顔でソフィアにしがみつくリンドブルム。
フロアの中央にある談話スペースに移動して以降、ずっとこの状態だ。
「ごめんねー。このヒト『幻獣使い』希望なんだけど、どうも可愛い系の幻獣とは相性が悪いらしくって」
「……はあ……」
リンドブルムは成長したら『可愛い』などというサイズではないらしいが。
「もふもふじゃないのが残念ー」
残念なのはお前だ、と副寮長二人が心の中でツッコむ。
金髪碧眼の長身クール系美女なのに、だらしなく緩んだ顔でリンドブルムを撫でまわす様子は、残念すぎて目も当てられない。小さくて可愛くてもふもふの幻獣と契約できない方が彼女のためにはいいのではないかと思われる。
「……ところで、いつになったら本題に入るの?」
若干苛立たしげな声を寮長に向けるのは、ソフィアの指導教官(仮)であるところのフェイ。
用事を片付けて、ソフィアの部屋に向かう途中でこの光景に出くわしたのだ。
本来、寮内施設の案内は寮長をはじめとする上級生が担う事となっているため、しばらく様子を窺っていたのだが、寮長はずっと締まらない顔で『ちびちゃん』を撫でまわしていたため、「可愛いー」の回数が五十回を超えたところで口を挟んだのだ。
「……あ」
「フェイ先輩!!!」
上級生三人組は口を揃える。
この春までフェイは学生として在籍していたため、上級生たちには『先生』というよりも『先輩』としての意識が強い。
「先輩、ではなくて先生、とお呼びなさい。新入生に示しがつかないでしょう?」
ソフィアの方に一瞬目を向けて、寮長たちを窘める。
「……はぁい……」
「えぇと……それで……お話の方は?」
肩をすくめる三人に向けて、ソフィアが恐る恐る続きを促す。
だいたい、『寮長・副寮長』というからには、新入生が大挙して入ってくる今日なぞは、こんなところで油を売っている暇もないほど忙しいはずだと思うのだが。
「ああ、そうそう。用件は二つ、ね。まず一つめ寮則の説明と、寮内施設の案内」
「は、私がします。時間があれば、周辺も少し案内したいし」
フェイが割り込む。
「……だ、そうです。もう一つは、明日の午後、新入生の歓迎会が一階の食堂とホールと談話室を使って行われます、ということで」
茶色い髪の副寮長が二つ折りのカードを差し出す。魔法での複製物だ。
開いてみると言葉の通り、歓迎会の案内状であることが判る。
「……歓迎会、というと……?」
「とりあえず、学生全部の顔合わせ、とか」
「寮に慣れる、とか」
「まあいろいろ」
「……はあ……そうですか。……えっと、これは、最初から最後まで居なきゃダメなんですか?」
案内状によれば、歓迎会は第一部・第二部とあり、トータルで六時間、途中に入る休憩を含めば足掛け九時間に及んでいる。
「第二部の方は流れ解散だけど、第一部はなるべく最後までいてほしいな」
それでも三時間だ。途中で息抜きに出るくらいは許されるだろうか? ……周りの様子を見て決めよう。
「いろいろ準備してあるから」
「……はあ……」
なんだか大変そうだ。