受け入れ側の事情
「予想以上、でしたね」
試験官の一人が大きく息を吐いて言う。
「ああ。いくらか紛れ込ませていた、卒業年次の課題も解いてしまうとはね。一体何を教える必要があるやら。おまけに、リンドブルムがまるで大きな猫のように甘えるし。……潜在力も高そうだ」
入学手続きの書類によれば、彼女の親のうちの一人は学院の卒業生だ。ある程度の手解きはされている、という予想はされていた。そうでなくても、幼少時から才能の片鱗を見せている場合、ある程度の制御ができるようになってから入学するのが普通だ。
だが、彼女の場合、ほとんど実践レベルまで使いこなせている。『魔法使い』と名乗るにはもう少し微調整が利かなければならないが。
「それも、ですけど、あの子まだ十二だか十三でしたよね。……垢ぬけない格好でしたが、育つのが楽しみな美少女ですね」
「……ああ。……あの人たちの娘ですから、それは」
入学の相談に訪れた、ソフィアの両親である夫婦を思い出す。やはり簡素で地味な衣服に身を包んでいたが、どちらも人も羨むような美貌だった。ソフィアとよく似た面差しの硬質な美貌の母親と温和な印象の繊細な容姿の父親。
「…………そうなると、殿下との接触が、危惧されますねぇ……」
両親もそこのところを強く強調していた。『どんな形であれ、娘を王宮にやるつもりはない』と。
殊に母親の方は、ここ何年かのうちに入学する可能性のある王族についても警戒を示していた。
「無理強いするような方でないのだけは助かりますが……来る者は拒みませんからねえ、あの方々は」
「跡継ぎを残せ、っていう無言の圧力がかかっているんでしょうが……もう少し慎んでいただけるといいんですがねえ。我々の立場では、なんとも……」
学院が『王立』である以上は、王室全体の意向――【金瞳】を絶やしてはいけない――に表立って反対はできない。だが、教育機関としては…………やたらと女子学生を孕まされては困る、というのもまた事実である。風紀上の問題、ではなく、妊娠した女性は魔力が不安定になることが多いのだ。
王族の証――始祖ユーサーを継ぐ素質がある者であるという証――である【金瞳】は、単に王族の子女として生まれただけでは現れない。しかも、【金瞳】を持たぬ女性からはたいてい一人の【金瞳】しか生まれない。出産後、ひどく衰弱して二人目を孕むことがかなわない事が多いからだ。
あまり知れ渡っている事実ではないが、王族の証である【金瞳】は、魔力の強い女性から生まれやすい、という傾向がある。魔法が使えようと、使えまいと。
なので『学院』は王族の配偶者を選別、養成する機関、という面も持ち合わせている。あくまで非公式に、ではあるが。
「……まあ、その辺の事は我々がここで心配してても仕方ありません。ぼちぼち次の判定にかかるとしますか」
「では、私はお暇しましょうかね」
そう言った年かさの試験官が出入り口の方へ向かいかけるのに、残りの試験官が口々に礼を述べる。お忙しいところをどうも、学長、と。