王国と王族
王国史は始祖ユーサーの死去による『第一次継承戦争』から始まるのが通例だ。なぜなら、この継承戦争で多くの記録が失われているからだ。残った記録も、戦争の後に改竄されたり、故意に歪曲して復元されたりした偽書が多い、という事で公的には認められていない。
だから、『始祖』と呼ばれているとはいえ、ユーサーの功績の多くは歴史の闇に埋もれている。
とはいえ、各地には散らばる伝説の主として、ユーサーの人気は高い。何しろ【龍】との契約者である彼の治世は百年とも五百年ともいわれているからだ。真偽の判断の付けようがない。
教師が替わるたびに、この『第一次継承戦争』から授業が始められるので、王国史のこの部分については、他のどの時代よりも詳しくなってしまった。
もっとも、他の王族たちもその辺の事情は似たり寄ったりだろう。
この、『第一次継承戦争』の結果が、現在もなお、『王族』を縛っているのだから。
『周辺諸国史』を学ぶようになると判るのだが、我が国の『王族』の定義は他の国と少し変わっている。王と正妃の子として生まれても王族として認められない場合もあれば、『傍流』(他の国から見れば)の、それも『妾腹』(他の国から見れば)の子であっても堂々と王族に数えられる場合もある。
おかげでうちの国は、よその国の王女の嫁ぎ先として非常に人気がない。正妃として嫁がせても、生まれた子供が次代の王になれなるかどうか判らない、というのでは躊躇もするだろう。
【龍】の守護を持つこと
これが『王族』と認められるための唯一の条件だ。
具体的には、【龍】の契約の証である【金瞳】が体のどこかにあること、だ。
王国の版図は、王都を中心としたほぼ円形を成している。
ユーサーの契約した【龍】の守護は、その全域に及んでいる。逆に言えば、わが王国は【龍】の守護によって国土を他国の侵略から守っている。
これが、『王族』が【金瞳】を持つ者に限る、という理由だ。
逆に言えば、このことが他国への侵略戦争の抑止につながっている。おかげでわが国はここ何百年かの間、他国との戦争はしたことがない。……王冠争いの内乱はあっても。
幾度かの王位継承戦争を経て、王位を引き継ぐルールは少しずつ整っていった。『王族』が廃絶になった時のルールも。
……だが、誰もその大元のところは変えようとしない。
【龍】の守護を失うことが怖いのだ。
そのため、【龍】の力をふるう事も覚束ないものでさえ、【金瞳】さえあれば王族に名を連ねる、という現在に至っている。
……今の王国は、まだ【龍】の守護を得ているのだろうか?