片道書簡
『……最近、ちびちゃんが呪符から出てもあわてなくなりました。羽ばたかなくても、数秒間はその場にとどまれる、という事が解ったのでしょうか。受け止め役を買って出てくれる、何人かの学生の顔からも、最近新しいひっかき傷がなくなっています。治癒術の練習にもなっていたんだけど……
というのは、冗談です。今更治癒術の練習なんかしなくても、母さんに習ったことで、十分事足りています。なにか新しい成果があったら、しっかり身につけてくるんだよ、と言われて来ましたが、今研究中のいくつかの事を除くと、あまり変化はありません。
あ、でも、そういえば、ここの治療院で使ってる傷当て材は、なかなか具合がいいです。資料を手に入れたら、送りますね。……』
『……今日、初めて、ちびちゃんが羽ばたかないでホバリングに成功しました。ほんの数秒ですが。……』
『……ちびちゃんに伝言が頼めるよう、訓練しています。まず前段階として、目的の所にたどり着けるかどうかを実験中です。
私のところへ来るのは、確実にできるようになりましたが、私の所から他人へは、あまりうまくいきません。私のところへ戻ってきてしまうのが半分くらい、残りがちゃんと着いたり、見当違いの人の所へ行ってしまったりです。ちびちゃんがよく知ってる人の所へは、割とちゃんと着きます。先生のところとか。そういえば、外に出してた時、かわいがってくれた人のところには、割とたどり着く事が多いです。何度か違う人を経由するみたいですが。どうしてかな?
今度帰ったら、うちでもできるか試したいです……』
『……このあいだ、恥ずかしい事がありました。いつものようにちびちゃんの訓練をしようとしたら、全く知らない人に声をかけられたんです。話を聞いてみたら、ちびちゃんてば、寄り道の途中でその人に出会ってから、何度も用もないのにお邪魔してるようでした。学生でも、先生でもない、職員さんみたいでしたが、お仕事の邪魔をしていないかどうかが、気になります。…………』
『…………ちびちゃんの伝言実験、滞ってます。なにかを運ばせるには、姿を現している状態でないとできないんですが、それだといろいろ障害があって。…………この手紙を、ちびちゃんに運ばせる事ができたら、安上がりでいいんだけどなあ…………』
『…………前の手紙から、間があいて済みませんでした。ちょっと、いろいろとあったので。その割には、ちびちゃんの訓練がうまくいってないので、特に報告する事もないなあ、と。…………今度の休みも、ちょっと帰れそうにありません。自力でうちまで帰るのは、なかなか難儀なので。そっち方面へ帰る人を、もし見つけられたら、また連絡します。…………』
『…………今期も無事進級できました。いくつかの教科は、卒業年次分まで免除になりました。ちびちゃんの訓練に使える時間が余分に取れるのでうれしいです。…………』
『…………長いこと連絡してなくて、ごめんなさい。相談したいことがありますので、一度帰ります。…………』
『…………卒業の目途、つきました。この前にお願いした事、よろしくお願いします。正確な日時を連絡してください。…………』




