はじめての、
その朝、ソフィアはわくわくした気分で目を覚ました。前の晩、なかなか寝付けなかったのに、目が覚めてしまったのはいつもよりも早い。そういえば、入学の時もそうだったかもしれない。
昨夜の学院内の雰囲気は、いつもとずいぶん様変わりしていた。
……というか、ずいぶん人が減っていた。存在感のある人達はおおかた下準備のために王都に行ってしまっていたからだ。とはいえ、普段騒ぐ者を窘めるような人も少なくなっていたので、ざわめきは普段以上だったけれど。
ベッドの上で伸びをして、顔を洗おうとベッドから飛び下りたソフィアは、勢いが付きすぎたのかよろけてしまった。
「……あれ?」
一瞬、目の前が暗くなり、頭がふらつく。
「……睡眠不足のせいかな?」
ゆっくりと頭を上げてそろそろと洗面所に向かう。冷たい水で顔を洗うと、少しすっきりする。
着替えようとクローゼットに向かい、扉を開けてはたと気付く。
「……何着てこう?」
クローゼットには、制服のほかはシンプルな普段着しか入っていない。白いブラウスが何枚かと、おとなしい色合いの(素材だけは『高級品』と言われているカルヴェス山羊の毛織の)スカートが三枚ほど。
破れたり擦り切れたりはしていないが、……少し地味では?
寮の中ではそれほど浮いてない、と思うけど、王都に行ったらどうだろう?
「……制服じゃ、だめかな? ……そういや、『学院』の制服は少々型が古いって言ってたっけ」
さんざん考えて、とりあえず普段の休日の服装で食堂に下りることにする。誰か知り合いがいるだろうから、そこで聞いてみればいい。
「ちびちゃん、ハウス」
足元に纏わりつくリンドブルムを、呪符にしまって寝間着を脱ぐ。ブラウスもスカートも、どれも似たり寄ったりのデザインだが、一応一番新しいものを身に着ける。
食堂は休日だというのに賑わっていた。……いや、名目上今日は休日ではない。だから寮の食堂は通常どおり開いている。
朝食をトレイに載せたソフィアが誰か知り合いはいないかと辺りを見回す。……が、あいにく服を見立ててもらえそうな人は見当たらなかった。
とりあえず空いた席に座り、食事を始める。
そのうちに誰か知り合いがやってくるかもしれない。……できれば今日一緒に行く約束をしているメンバーの誰かがいい。待ち合わせにはまだだいぶ時間があるけれど。
もそもそとパンを口に運んで、飲み込みにくいのに気付く。
……ここのパンって、こんな味だっけ?
スープもどこか味がぼんやりして……
……ぼんやり?
ソフィアは何かおかしい、と思いながらも食べられない味じゃないからいいか、と、いつもよりも時間をかけて朝食を食べ終えた。




