封じる・思い 1
ちびちゃんを封じるのには、すごく躊躇いがあった。
拾った時から、いずれ放すつもりでいた。ちびちゃんを憑依させるつもりはもちろん、使役するつもりもなかったから。
けれど、ちびちゃんは、自分の体形を変えてまで私の傍を離れたがらない。
だから、
「……これは、契約してしまった方が、この子のためだと思う」
そう言ってフェイ先生は契約した場合のメリット、デメリットを並べ上げてくれた。
場所を取らないこと。
他人に横取りされる虞が少ないこと。
呪符の内側にいる間は魔力の消費がごくわずかであり、したがって『食事』がわずかで済むこと。ただし、幼生の場合、成長が止まってしまう可能性もあるけれど。
人と契約した幻獣は、野生のものと習性が変わってしまう、ということ。
……そのほか、いろいろ。
「これは、私の知る限りでは、ということだけどね。それに、『憑依』と『使役』では、違うこともあるし。あと、メリットと感じるかデメリットと感じるかは、本人次第だけど」
と最後に付け加えた。
『憑依』というのは、呪符ではなく、自分の体に幻獣を封じる技。莫大な魔力を得られる(もっとも、それなりの魔力がなければできない荒業ではある)上に、寿命も延びる。……そして、体の表面にその【証】が刻まれる。
今回『憑依』は行うわけにはいかない。ちびちゃんはまだ幼生だ。
だから、封じるための呪符は、一番拘束力が弱いものにした。
いわゆる、【檻】とか【罠】とか呼ばれるものだ。封じられるものの力次第では、破られてしまう、ごく初歩的な呪符。 ただし、封じられているものを損ねないように、丁寧に、頑丈に作った。
万一呪符ごと盗まれてしまった場合のことを考えて、私以外の人が呼び出したときは、呪符が壊れ、ちびちゃんが解放されるような設定も付け加えた。
「ちびちゃん、ごめんね。……この中に入ってくれないかな」
できあがった呪符をちびちゃんの目の前に翳し、魔法を発動させる。
呪符から伸びた光の網がちびちゃんを絡め取り、一瞬露輝いて、消える。光とともに目の前からちびちゃんの姿が失せた。
呪符の中かららは確かにちびちゃんの気配がするのに、寂しくて堪らなかった。先生がその場にいなかったら、泣いていたかもしれない。
だから、呪符に封じたあとも、首回りのさみしさに慣れるまでは出しっぱなしにしておこうと思う。このことに気付く人が現れるまで。
短時間なら離れていられる、というのは、歓迎会の時で知られているだろうから、呪符を見えないようにしておけば、気付かれにくいだろう。
(2012/11/15)拍手小話、こっそり更新しました。




