新入生歓迎会――質問
カルヴェス高地とは、この国の北部から東部にかけて広がる高山地帯で、集落と呼べるものは一つしかなく、あとはあちこちの谷間やわずかな平地に数軒の人家が固まって建っているようなところだ。ただし、そんな環境のせいか、魔法が使える者の割合が極めて高い。
とはいえ、大多数の学生達には『ものすごい辺境』『北東の要害』『よくわからない謎な場所』といった程度の知識しかない。かろうじて歴史や地理に詳しい者達がその辺の事情に通じている、といった程度だ。
だが、ソフィアについては、もうひとつ情報があった。
「あなたのワイヴァーンは、そのカルヴェス産?」
彼女が伴ってきた幻獣の事だ。昨日と今日、彼女はソレをずっと背負っていたのだ。この会場に来るまで。彼女の姿を目にした者達は、皆ソレのことを聞きたく思っていたのだ。
「あの子は、ワイヴァーンではなくて、リンドブルムですが……」
「産地は不明、です」
「拾ったのはうちの近くの森ですが」
ソフィアがひとこと言うごとに、学生達の間でざわめきが広がる。
幻獣が下位龍族のワイヴァーン(それでも幻獣としては上級種だ)ではなく、上位龍族であるリンドブルムであったこと。
ソレを『拾った』ということ。
しかもその場所が『うちの近く』だということ。
いずれも学生達には信じ難いことであったのだ。
しかも、彼女はソレを『あの子』と呼ぶ。……いや、幻獣使いの女性の中には自分の使役する幻獣をそう呼ぶ者もいなくはないので、そこは譲ろう。
でも、……リンドブルム、だぞ?
……いろんな意味で、
『カルヴェス高地怖ぇー』
学生達の心情を表わすと、こんな感じだろう。
「そ、そうなの……」
「でも、ちびちゃんは、ケガを負ってから飛べなくなってしまって………」
……『ちびちゃん』?
飛べなくなって?
耳を疑うような単語に、学生達のざわめきが逆に鎮まってゆく。
「それで学院ならちびちゃんが飛べるようになる方法がわかるんじゃないかと思って来ました」
「そ、そうなの……」
寮長(女)がほうけたように頷く。ほとんど無意識に。
「ですので、皆さんよろしくお願いします」
ふたたび頭を下げ、掴んでいた手が緩んだのをいいことに隅のテーブルの方に逃げる。会場に入るのが遅くなったせいで、空腹が限界に近かったのだ。
自己紹介の一人目がこんなだったことで、残りの新入生達の話が精彩を欠くことになってしまったのは、たぶん誰の責任でもない、だろう。
そのあとの上級生達の演目に大きなミスがなかったことは褒めるべきだろう。たとえ演者の目が虚ろだったとしても。




