新入生歓迎会――ペナルティ
ソフィアは途方に暮れていた。
轟音に驚いて逃げだした幻獣を追いかけて捕まえ戻ってきたら、『遅刻』と呼ばれる事態になっていたのだ。逃げ出したりしないよう、言い聞かせる時間が長すぎたのだろうか?
そのちびちゃんはどうしたのだ、と寮長(女)に問い詰められて、部屋に置いてきた、と答えたら、とてもいい笑顔で、「じゃあ、これから新入生自己紹介の時間だから、皮切りお願いね!」と言われ、ここに立っているのだ。
だが、村人すべてが顔見知り、という辺境の村(の、そのまたはずれの森)で育ったソフィアには、その経験がない。少ない、ではない。皆無なのだ。それらしい経験を強いて挙げれば、つい昨日、面接の教授陣と対峙した時のものだけだ。しかもそれは、あらかじめ彼女の身上についての書類が相手側に渡っていてのことなのだ。
……自己紹介、って、何言えばいいんだろう?
とりあえず、名前?
「ソフィア・アウレリス、です」
入学申請書類に記した名前を言うと、学生たちの一部がざわつく。
「……よろしくお願いします」
他に何を言ったらいいのか判らなくて、それだけ言って頭を下げる。そのまま下がろうとすると、
「はーい。何か質問がある人ー」
腕を掴んで引き止められる。腕を掴んだのは、美麗に改造した制服を着こんだ、司会役を務めている寮長(男)だ。
「アウレリスって、あのアウレリス?」
ざわついていた学生の方から声が上がった。
アウレリス、という家名の由来は古い。王家であるゲオルギアよりも数代は遡ることができる。
それゆえに栄枯盛衰も激しく、過去現在において、権勢をふるっている一族もいれば、古い時代に都落ちして民間に埋もれている一族もいる。ただ、はっきりしているのは、歴史上名の残っている『アウレリス』に、魔法使いは一人もいない、という事実である。
「……あの、というと……?」
だが、辺境の村(の、そのまたはずれの森)で育ったソフィアにはその辺の事情が判らない。そもそも自分の家名が『アウレリス』である事も、ほんの数日前に知ったばかりだった。(実のところ、アウレリスを名乗らせるかどうかについて両親の間でかなり検討されたのだが)
「……ええと、違うようなので、いいです」
質問に質問返しされた学生は、あっさり質問を引っ込めた。
あの、といわれる『アウレリス家』は、現在文官武官ともに上位の役職を押さえている一族を指している。もちろんソフィアはそのことを知らないし、考えたこともない。
「他に質問は?」
ソフィアの腕を掴んだ寮長(男)がにこやかに言う。掴まれたソフィアの方は、涙目で『答えられない質問はしないで』と訴えている。その表情を見て、寮長(女)が助け舟を出す。
「こちらで掴んでいる情報によると、彼女はカルヴェス高地の出身だそうです。質問はそのことを踏まえてどうぞ」




