新入生歓迎会・1
一階フロアは朝から人が走り回っていた。
新入生歓迎会、というお祭り騒ぎのためだ。
新入生達は早朝、朝食が終わると直ぐそのまま寮を追い出され、オリエンテーションという名目で学院内を連れ回されているはずだ。
帰ってきた新入生達を驚かせる、あるいは困惑させるため、寮長・歓迎委員長の命令一下、寮生達は右往左往させられている。
この場での序列は第一に成績なので、たとえいかほど潜在力があろうと成績の悪い者は右往左往の方に入るしかない。
それがたとえ王族であっても、だ。
なにしろ時間が限られているのだ。世俗の権力を振りかざすような奴はお楽しみに参加する資格はない(と調教されるのだ。1年かけて)。
そういうわけで、現在学院に唯一在籍している王族である彼も使いっ走りさせられていた。
やるべき準備はたくさんある。
会場のセッティング、飾り付け。もちろん歓迎会終了後には元に戻せるように移動したテーブルや椅子は、一つ一つ元あった場所を魔法で記憶させないといけない。
式次第の確認と演目の最終チェック。器具や装置を使うものはその設置と撤収の手順の確認も。
料理と飲み物、それから食器の手配。配膳手順の確認と通路の確保。
万一何かあった時のための守護魔法の強化。
……などなど。
使える魔力はふんだんにあるのに、その制御がいまいちな彼は、もっぱら魔力の供給源としてあちこちから呼ばれていた。成績上位な連中は複数の人間の魔力をまとめ上げることも、それを自分のものとして扱うことも可能なのだ。……稀に自分の魔力は乏しいのに、そういう才能にだけ長けている者もいるが。
彼ほど極端ではないが、ほかにも数人、潜在魔力と技能のバランスが悪い者がいて、やはり魔力供給源としてあちこちから声がかけられていた。
「……はい! お疲れー!」
「手の空いた人から部屋に戻って着替えてー!」
男女それぞれの寮長が準備作業の終了を宣言する。
オリエンテーションを終えて意気揚々と帰ってくる(であろう)新入生たちに、疲れてよれよれになった上級生の姿を見せるわけにはいかない、ということで、歓迎会の始まる一時前には寮の入り口が閉められ、一刻前には準備作業を終えて、上級生はいったん部屋に撤収する。そして服装を改めてから一階へ戻り、(裏方のスタッフ以外)全員が整列して新入生を迎え入れる、という手順になっている。




