抹殺
南塚浩士の首元に刃を当てたまま、俺は南塚圭を探す。あの子がいなきゃショーにならないんだ、さっさと物音でも感じて出て来てよ。先程入って来るときにドタバタと相当な音を立てたから、驚いて出て来てもおかしくはない気がする。しかし、南塚圭はいつまで経っても出てくる気配はなく、俺はチッ、とあからさまに舌打ちをしてから「圭くーん!お兄さん来たよー!」と、昼間話したように優しい声で呼びかけた。これで出てこなかったらそのまま殺してしまおう。
それから数秒、階段をトタトタ降りる音が聞こえて、これは絶対に南塚圭だと確信した。しめた、と口元が勝手に緩む。南塚浩士の方は黙ったまま。
「え!?お兄さ……あ、」
お兄さん、と期待に満ちた声で俺を呼ぼうとした声は、驚きに掻き消された。それも当然だろう。昼間話した優しいお兄さんがいきなり家に入って来て、父に刃を向けているのだから。その表情は期待から一気に恐怖へと変わり、その場に力なくへたり込んだ。
「お兄さ……ん、なんでお父さんに……」
「え?だって言ったよね。俺は手伝ってあげるって……俺がそう言う前、なんて言った?」
少し考え込むような仕草を見せる。それからハッとしたように顔を上げて、「殺したいくらい……」と放心したように呟いた。
「……そうだね。俺のお手伝いはお父さんを殺すお手伝い。」
そう言って、左手に持った鎌に力を込める。少し刃が食い込んだのか、口がヒクと動く。本気で殺そうとしているのが分かったのか、「やめろ……」と小さく唸った。血走った目で睨みつけられて、それが俺には気に食わなかった。お前ごときに睨まれる程俺は下等人間じゃない!
ガッ、と大げさな音を立てて南塚浩士の顔面を思い切り踏みつけた。「ぐ……あ……」と俺の靴の下で南塚浩士が唸る。南塚圭の方は悲鳴を上げて後ずさった。そのまま踏んでいる左足に体重をかけてグリグリと踵で潰した。丁度眼球の方だから痛いだろうな、と考えるとどうしようもなく加虐心が煽られた。
「ふん……このまま遊んでてもいいけど……そろそろ飽きちゃった。もう、一気でいいよね?」
反論無用。面倒だから踏んだ足を一旦退けて、切っ先を喉元に付ける。そのままぐ、と力を込めて、軽く皮膚を切り裂く。そのまま、少し切っ先を横にずらす。
「じゃあ、さよなら」
ニヤリ、と笑って南塚浩士を見下す。そして一気にその首を右になぎ払う。当然刃で切り裂かれて、そのまま、鈍い音を立てて少し離れた所に落ちた。床に敷いたカーペットに赤い血が滲む。広がる赤い領域に、南塚圭はその状況を読み取れないようだ。
「う……あ……お父さん?」
その足元に転がった頭だった物を見る。もう、"お父さん"とは程遠いそれを見て、どんな反応を見せるのか。シャキン、と音を立てて手にした鎌を収納する。およそ十センチ程になったそれをベルトに挟んで、俺は南塚圭と同じ目線にしゃがんだ。
「……いい暇つぶしを、どうも」
少年は怯えた目でこちらを見た。