とある少年の暇潰し
俺達は、気付いたらこうなっていた。こうなっていた、という言い方は少しおかしいかもしれない。俺達は、気付いたらここに居て、こんな事をして……。つまり、よく分からないまま今の暮らしに辿り着いていたんだ。
俺、四ツ田八尋は確か今年で十五だったと思う。確か、というのはここでは誕生日なんて更々存在しないし、年齢なんて重要視されてないからだ。若かろうと老いていようとも、使い物になるなら使う。ならないなら捨てる、ただそれだけがここのルールで、それ以外はほぼ無法に等しい。
それがここ、特殊抹殺部隊。一般には存在すら知られず、ただ無差別に人間やら人の形を取らない"何か"を抹殺する。殺し屋や何かとは違う。あくまで無差別、それが基本なのだ。
ただ、例外としてちょっとした暇潰しをする事がある。
例えば、だ。俺が誰か、一般の人と話をして居たとする。別に、一般に紛れて生活してはいけないなんてルールはどこにもないから、少なくとも俺は普通に生活している。……話を戻して、その話をしていた相手が、仮に誰かの事を殺したい、誰かが死ねばいい、と言ったとする。すると俺は、「……手伝ってやろうか?」とか何とか言って、その"誰か"を殺す訳さ。そしたらある人は喜んで俺に報酬を支払い、またある人は俺を化け物と擬えてすぐさま逃げる。どちらの場合もその相手とはオサラバ。その人自体もこの世から消してしまう。
そんな俺を大抵の奴らは悪趣味だと嗤うが、別にだからって邪険にはしない。ここではルールなんてないから。徳に背いてたって、そんなの他の奴らには関係無い事だからね。尤も、それが気に障って俺を殺しに来た奴も何人か居たけれど。そいつらももう俺がお目にかかることは出来ないって訳さ。
ここまでの話で、この特殊抹殺部隊が名の通り相当特殊で、そこそこ大きい団体だという事はわかったと思う。確かに大きい団体なのだが、それが何故警察にバレないのか。それは一番上の奴……ボスが警察の上の方のなんとかって奴と結構親しいらしいから。結局世の中は金と権力となんとやらって話だよ。
「……おい、何一人で百面相してんだ?八尋……いつにも増して変人に見えるぞ」
「あぁ、秋都。いきなり現れて変人だなんて失礼な。それにここには常人なんていないだろう?」
「それもそうだな」
座っていた窓枠から飛び降りる。特殊抹殺部隊に入っている者に与えられる、無機質な部屋だ。本当に、最低限の物しか置いていない。窓の外には空だけ。
目の前の男は、冷蔵庫から適当なペットボトルを取り出して飲み始める。支給品だから俺も止めはしないのだが。それにしてもこの男、外崎秋都はいつもなんでこう、俺に付き合っているのだろう。そういえば、何時の間にかここに存在してから付き合っている数少ない人間のうちの一人かもしれない。
「また、お前は暇潰しに行くんだろ?」
「まぁね……何、不服?」
「いや?ただ……帰ってきたらボスが呼んでるぞ。用は知らないがな」
「うえー……ゆっくり帰って来るよ。なるべくね」
「了解した」
用はそれだけだったらしく、早々と部屋を去って行った。もれなく飲みかけのボトルも持ち出して。
ボス直々のお呼び出しなんて何年ぶりだろうか。また昇格かな、それだったら平和に帰れるな……そこで俺はふと思った。そういえば、秋都より俺は年上で、格上。……それについて、秋都は一体どう思っているのだろう。
特に気にする素振りを見せた事はないが、実際の所俺の事を敵視していたりして……ね。強ちあり得ない話でもないからぞっとする。年齢も戸籍もここでは関係ないけれど、上下関係だけは一応重んじているのだ。下克上、なんて話もよく聞くし。
「まっさか、秋都がねぇ……」
ないとは言い切れないけど、そう思いたくはないな。やはり人殺しを娯楽と同等の感情で行っているとはいえ、近い人間を疑いたくはないっていう人間心理は働くんだなぁ、と改めて実感する。
「……んじゃ、そろそろ行こうか」
ん、と固まった体を伸ばして、右手の先にある金属製の塊を掴む。ただの一般人相手だろうし、これくらいでいいだろうともう一つの塊は置き去りに。
「どうせ暇なんだから、楽しまなくちゃ、ね?」