2-2 「襲撃」
「ただいまぁ・・・」
いつも元気ではないが、明るく言う帰宅の言葉も今日はへなへなだ。実際立也はくたくただった。
「父さん?・・・・・・買い物かな」
案の定、居間のテーブルには書置き。ロールキャベツにしようとしたが、キャベツ忘れた。別にハンバーグでいいじゃない、どうせ作るのは主に僕なんだから、と思いながらも、ロールキャベツが食べたいくせにキャベツを忘れる父の微笑ましさに少し気分が上昇する。
試験も終わり、数日来続いた勉強の日々から開放され、居間で寝転ぶ。制服の内ポケットを探って、そこにいまあるべきでない紙を2枚取り出す。
「はぁ・・・・・・だめだなぁ、僕・・・」
眠気に襲われて、目を閉じる。もう、眠って忘れよう。いいよ、頑張った。
まどろみが本域の眠りに差し入る寸前、全身に怖気が走って飛び起きる。
「だ、だれ、なに!?」
全身に鳥肌が立っている、冷や汗が止まらず、ひどく寒い。なにかはわからないが、なにかがそこにいる。いつも父さんと食事をする居間、チャンネルを取り合う居間。だが目の前の部屋は全然別の、得体の知れない、なにしろよくないものに侵されていた。
「で、出てって!で、出て行ってください」
ふるえながら窓を開けて言う。ともかく気が動転して、早くどこかへ消えてほしかった。早くあの居間を返してほしい。もうなんでもいいから、どこかへ行ってほしい。窓を開ければ霧散すると思った。
だが、気配の密度はむしろ高まっているようだった。このとき冷静な人間がいて視覚的に状況を判断したなら立也の様子は異常以外の何者でもなかったが、猫か狐でもいれば、総毛立てて飛んで逃げただろう。そして、もし猫さんがそんな異常な様子で逃げ出したなら、立也もつられて逃げ出せたはずだ。だが、生憎猫はいなかったので、立也は蹲り、目を瞑る、という形で目の前の現実から逃げた。
ここにおいて、立也の命運は彼の手を離れ、長らく手元に戻らなくなった。