1-2 「幼馴染」
「行ってきます」
「おう!今日も元気にかましてらっしゃい!」
父のよくわからない挨拶も、実のところ今日だけは的を射ている。立也は、うん、かまそう、とあまり自分では使ったことのない動詞を心で呟き、家を出た。学校へダイレクトに向かうのではなく、少し寄り道する。
「おっは~よ!」
「わわっ・・・・・・」
背中に一発パンッとやられ、立也はビクッとする。どうしてもいつも以上にびくっとしてしまう。
「もう・・・・・・歩ちゃん、やめてよ。びっくりするよ」
「なに、今日はやたらリアクション大きいね?なにかあるの?」
「いや・・・・・・べ、別に」
背中を張られた反応だけで、自分の胸中を測り取る幼馴染・木森歩の洞察力に一瞬冷や汗をかきながら、立也ははぐらかす。
「ふぅ~~ん、ま、いっけどね。おはよ」
「おはよう」
2人して集合場所へ行くと、もう一人の幼馴染・水瀬零が待っていた。
「おはよう」
「おっは~」
「おはよう」
じゃあ、行こうか、とかいう次の行動を促す言葉などなしに、3人は駅に向かう。
「ねぇ、零君。今日のタツおかしいと思わない?」
「・・・・・・・いや?」
「なぁんか、そわそわしてない?」
「・・・・・・さぁ」
普段は自然体で十分表情が硬い零だったが、今日ばかりは強いて表情を動かないように努力した。
「ふぅん。じゃ、気のせいかな?あ、私定期切れっちゃってたんだ。ごめん切符買う」
歩が券売機の方へ行ったのを見計らって、零は立也ににじり寄る。
「映画、まだ誘ってないのか」
「・・・・・・うん」
「折角集合前に会ったのに?」
「・・・・・・なんか、ちょっとそういう感じじゃなくて」
「そこは立也が自分でそういう感じにしないとダメなんじゃないか」
「・・・・・・う・・・・・・うん・・・・・・そう、だよね」
「ともかく、早く言っておかないと、他に予定入れちゃうだろう?」
「・・・・・・うん、ガンバル」
励ましておいてなんだが、なんて『ガンバル』という動詞の似合わない人なんだろう。とは口に出さないものの、そんな心配が、滅多に動かない表情に出た零に、立也は「ガ、ガンバル・・・・・・・よ・・・」。零の心配は濃くなる。
今日は、幼馴染3人が通う高校の期末試験最終日である。これが終われば、高校生は夏休みまで開店休業みたなものだ。試験の結果と通知表が補習を命じなければ、まる2ヶ月は青春スイッチ全開が許される。
大地立也は、これを機にずっと、それこそ小学生の頃から気になってる女の子、木森歩嬢と一歩進んだお付き合いをと考えた。幼馴染の零に相談し、一念発起して映画のチケットを買ったものの、購入して二週間、とうとう青春スイッチ発動まで残すところ約7時間というところまで来てしまった。