5-4 「VS蝙蝠人間」
「天津さん!」
立也の戦線復帰に気づいて、基は蝙蝠人間から離れる。蝙蝠人間は何かに縛られたように動かなくなった。
「寿命が随分縮まったに違いない」
「すみません。でももう平気です。あれ?虎と狼は?」
「あれは幻だ。君が突っ走って突き抜けただろ、覚えてないのか」
全然覚えがない。そういえばそんな気もする。
「あれの本領は幻でこちらを撹乱する術のようだ。まあお陰で私でも時間稼ぎができたが・・・」
「で、どうすれば?」
「・・・・・・少しは労ってほしいところなのだがな。私もそう若くないのだぞ・・・・・・まぁいい」
基は掌を立也に向けて、なにか一言呟いた。すると薄い光の膜が立也を包む。
「これで幻術は効かない。後の答えは君の中にあるはずだ」
「でもあいつ空にいるんですよ?蹴っ飛ばすにしてもどうやって?」
「いや。そもそも死霊に物理攻撃は効かない・・・・・どうだ?」
「ど、どうって言われても・・・」
基の説明は、自作の単語が多いものの大抵理路整然としていた。でも今の基の言葉には脈絡がない。なにがしたいのか全然わからない。
「駄目か。頼む・・・・・・・・・真」
「マコト?」
なんのことか、聞き出そうとしたとき、それ、は答えた。
『わかった、と言え』
「はい?」
『いいから言え』
「わかった。・・・・・・言ったよ?」
「そ、そう言えと?」
基が少し興奮している、短い付き合いだがこんな一面があるのは意外だった。
「私は歩嬢についていよう。では、立也、真。頼む」
蝙蝠人間の拘束が解けたらしい、獲物を見つけた隼のように立也に近づいてくる。立也にはなにをどうすればいいのかわからなかったが、なんだか無性に体が熱くなっていく。
『何も考えるな。感覚をこちらに任せろ』
「どういうこと?」
『何もするな。何も考えるな。少なくとも喋るな』
口を引き結んでじっとする。
『駄目だ。一旦逃げろ』
「はいぃぃ?」
『目玉は付いてるんだろう。見ろ!もうそこだ』
目の前に蝙蝠人間に気づいて、思わず飛びのくが、
『まずい、もっと離れろ』
「えぇ?」
蝙蝠人間が歩を浮かせたときみたいに掌をこちらに向けている、と思ったら、どんどん体が浮き上がる。
「ちょ、術は効かないんじゃ?」
『防げるのは精神干渉だけだ。これは重力干渉のようだな』
「冷静に言ってないでなんとかしてよ!」
『落ち着け。こちらに感覚を委ねてくれ、うまく操作できない』
だから感覚を委ねるって・・・委ねる、委ねる。どんどん高度が上がっていく。落ちたら間違いなく死ぬ高度に達している。思わず先ほどの歩の恐怖を慮る。それを呼び水に歩、零、守のことに思いが及ぶ。映画行くって言ったのに・・・なんかあれ以来ちゃんと話せなくってごめん・・・玉子焼きうまくなってね・・・
『よし、それだ!その感覚!』
声が言った途端体の熱さが消え、立也の意識とは関係なく動き出した。手のひらを蝙蝠人間に向ける。どこからともなく思考が流れ込み、茫漠たるイメージが映っては消え、その内一つの言葉に収斂する。
『よしいける!唱えろ』
声がなにを言ってるかわかる。掌がとても熱い。異形を滅す力がそこに収束しているのを感じる。
『喰らえ、蝙蝠野郎!!!』
「サイコォ・バスタァァーーーー!!」(干渉術『精神破壊』 超干渉 サイコ・バスター)
瞬間手のひらに衝撃、代わりに青白い閃光が放たれ、蝙蝠人間に命中した。閃光に当たるや蝙蝠人間の体は砂みたいになって、ちりぢりになる。次の瞬間にはもう跡形もなくなっていた。
『よし!』
「やった!」
ガッツポーズの立也を少し離れて基が見守る。
「あれが、超干渉・・・・・・」
これで一安心、と思う間もなく、立也の体は重力に従って落下を始めた。まずい、この高さはまずい。
「ねぇ、ちょっと!なんとかしてぇ!」
『肉体のことは基本ノータッチだ』
「えっ、ちょっ、えっ」とか言ってるうちに、地面がぐんぐん近づいて、その距離はすぐに0になった。