5-2 「悪夢」
「な・・・なに・・・?タツ、ねぇ?どこ?」
自分を探す、歩の震える声を聞いて、立也はなんとか意識を戻す。たった今突っ込んだ穴から塀を抜けて道へ戻る。「タツ・・・」と今度は本気で涙する歩を見て、立也は後悔する。巻き込んでしまった。
異形は立也たちを通せんぼするように二体、虎みたいな奴とまるっきり狼のやつ。さらにさっき立也を吹っ飛ばした、蝙蝠みたいな羽の生えた奴が空に一体。狙われているのは立也であって、歩じゃない。なんとか歩を逃がせないかと考える間もなく、
「ちょ、わ・・・なに・・・・・・な、なんなの、これ・・・タツ、タツ怖い、怖いよ・・・」
歩の体がグングン宙に浮き上がっていく。地面の二体はじりじり近づいて来ているだけだが、蝙蝠みたいなやつが掌を歩に向けていることから、あいつが歩をどうにかしようとしていると判じる。
「どうして!狙いは僕じゃないのか」
蝙蝠みたいな化け物が哂った。人間と構造が違いすぎて表情はわからないが、その様子はまさに知能ある生き物が他者を馬鹿にする仕草だった。瞬間、歩を周りの家よりずっと高くまで持ち上げていた魔法が突如牙をむいた。歩は立也からはるか遠く、虎みたいな死者が間にいることも考えると実質絶望的な距離の地点目掛けて、まさに”放り投げられた”。
「あゆみぃ!!!」
今まで出したこともない大声を張り上げながら、立也は走る走る。でも、でも
「間に合わない・・・・・・やめろーーーーーー!!!」
立也の絶叫にも拘らず、歩を縛る重力は無慈悲に加速をかけ、地面が迫る。もはや頭の中を真っ白にしながら、歩を目で追いながら、絶対無理とわかっていても立也は走り続けるしかない。
しかし、その努力は当初からの予想通り徒労に終わった。もはや歩の姿は宙にない。
でも、地面にもなかった。放心状態の立也に後ろから声が掛けられる。
「・・・・・・全く、そんなに大事ならしっかり抱きしめて離すな。」
歩は目をまんまるにしながら、天津基に人生初のお姫様抱っこをされていた。