第5幕 「立ち向かう少年・大地立也」 5-1 「目撃」
木森歩は不満を感じている。
「おはよう」
「昨日の映画たのしかったね」
「現国77?私86!勝ち~」
などなど、今朝から何度となく大地立也に話しかけているのに、そのすべてに対して「あぁ」だの「うん」だの「はは・・・」だの、まともに返事をしてもらえない。挙句帰り際、
「・・・・・・僕、また、明日から夏休みまで学校を休むことになると思うんだ。だから朝は待たないで先に行ってね。」
と来て、
「・・・・・・夏休みも少し他のことやらなくちゃいけなくって、遊べなくなっちゃったんだ・・・・・・ごめん」
と来た。なにがあったのか聞いても何にも言おうとしないし、あんな立也は初めてだった。零に促されて、引き下がって別れたけれど、やっぱりこんなのスルーは無理です、というわけで歩は早足で立也の家へ向かっているのだった。
ピンポーン
昨日は昨日で緊張していたが、今日は緊張に加えて不安が色を添えているので、大分感覚が違う。「はい」と返事があって、「私」と答える。昨日と同じやり取りだ。出てきた立也は、やっぱりね、という顔だった。自分に理解できるタツが帰ってきて、なんだかほっとする。
「なにその顔。あんなの納得できるわけないでしょ。どういうことなのか聞かせて」
「・・・ごめん、あの・・・二学期になったら・・・話すよ」
「嘘。頭かきながら言うときは大抵嘘なんだから」
「いや、嘘じゃない、よ。話す。ちゃんと話すよ」
相変わらず頭をかきながら言う立也に、本気でむかっ腹が立つ。
「・・・もういい。勝手にすれば」
ちょっと涙目にしながら、わざと、っていうかできるだけ冷たく言って、踵を返して早歩き。「あ、歩ちゃん、待って」と追いかけてくる立也の声が聞こえて、してやったりと心でにやり。だが、
ズドンッ
メキャッバキッ
振り返ったそこに立也はいない。人間一人分が突き抜けたような穴がお迎えの木の塀にポッカリ開いていた。