第4幕 「不幸な少年・大地立也」 4-1 「天津基」
気が付くと立也は自分の寝室で寝ていた。起き上がると、そこには見慣れぬ男がいる。
「おはよう」
「・・・お、はよう、ございます」
その男が嫌味も脅しもなくあんまり普通に挨拶するものだから、立也もつい返す。立也の顔に書いてある「Who are you?」に答えるように男は言う。
「私は天津基という。死霊だ」
シリョウという言葉にひどく不安になる。資料とか試料の方の抑揚でなく死霊の方のイントネーションだった。不安そうな立也の表情を見て、男はやっぱり、みたいな感じで少し残念そうにする。
「そうか、そこまでの交流はないのか・・・・・・いや、心配しなくてもいい。私は君の敵ではない。いや・・・・少なくとも私から君を傷つける意志はない。」
喧嘩を売るとしたら君の方だ、という言い方が腑に落ちないが、一応ほっとする。ほっとすると同時にここが自宅であることに気が回る。
「と、父さんは?」
「隣の部屋で眠ってもらっている。安心したまえ、私の干渉術で睡眠を誘導しただけだ。命に別状ない。」
襖を開けて確かめると、確かに守は静かに眠っていた。乱暴された様子もない。あの元気溌剌の父をどう静まらせたのか。自室に戻って襖を閉める。
「君にはいろいろと辛い話をしなければならない。でも、君がこの先、生き残るには必要な知識だ。静かに聴いて、そして信じてほしい。」
死霊とか生き残るとか、なんとも不穏な人だ。
「それはあの犬みたいな奴とも関係するんですか」
「もちろん。あれは死屍という。死霊と同じく死者だが、精神が著しく不足している点で死霊とは違う。」
「シシ?シシャ?」という顔で聞く立也の前に、基は腰を据え、とうとうと自説を語り始めた。