3-2 「決意」
ピンポーン
家のベルが鳴って、立也は目を覚ます。最近一日中布団にいて眠っているが、些細な拍子に逐一目が覚めるので、結局は常に眠い。玄関に行って、返事をする。「私」と歩の声がして、ほっとする。
「・・・やぁ・・・どうしたの?」
「どうしたのって・・・・・・元気かなって」
「・・・・・・・まぁ、あんまり元気ではない・・・かも」
「そうだよね、でないとガッコ休まないよね・・・」
いつも元気な歩がしょげていると、とても悲しい気持ちになる。いっそ話してみようか、でもわかってもらえるとは、思えないし、ふざけてると嫌われてしまうかもしれない、と二の足を踏む立也をよそに、歩は緊張しながらも、しっかり自分の目的を遂行する。
「あ、あのさ、映画行かない?その、あれ、気分転換的なあれで」
「映画?」
「うん、これ」
歩の出したチケットは、数日前立也が誘うはずだった映画のものだった。結局、あのチケットは自室の机の引き出しにしまわれ、思い出すたびに暗くなるから捨ててしまおうか、というもう思い出したない遺物となりつつあった。バケツの水を浴びせかけられたようにハッとして、それから立也は自分がとても情けない奴だと思った。
思えばずっと大地立也はそういう人間だった。遠足の班分けは誰かに誘ってもらえるまで独りぼっちで待っていた。運動会の種目も係りが割り振るのをただそのまま受け入れた。折角チケットを買った映画にも誘えなかった。黒い気配を前に、追い出そうとするでなく出て行ってくれることを願った。目の前の異形を前におびえるしかできてない。
歩は違う。遠足では誘ってくれて、運動会でも100m走に名乗りを上げ、いま、こうして映画に誘ってくれる。立也は改めて歩を尊敬し、見直し、そして多分結構、惚れ直した。
「ありり・・・こういうの好きかなって思ったんだけど・・・外した?」
硬直して動かなくなった立也に困惑しながら、歩は恐る恐る聞いた。それに答えるために顔を上げた立也の眉はまずらしく逆ハの字にキリッと力が込められていた。
「行く。行くよ」
立也のはっきりした口調に戸惑いながらも、歩にいつもの笑顔が少し戻った。