見たかった星 【月夜譚No.395】
空を見上げても、星は見えなかった。思わず唇から息を零した彼は、ベランダの手摺りに凭れて眼下の夜景をぼんやり目に映す。
高校を卒業して一ヶ月。まだ慣れない仕事に右往左往しながら、どうにかここまでを乗り切った。大学進学の為に上京して遠距離恋愛になった彼女と毎晩のようにメッセージや通話をして、それを糧に毎日を踏ん張っていた。
しかしながら、今晩は彼女からの連絡がない。どうしているかとメッセージを送ってみたが、既読もつかないので、疲れて寝てしまったのかもしれない。
明日からゴールデンウィークが始まるが、今年は東京での生活に慣れる為に帰ってこないと宣言されている。淋しさはあるが仕方がないと割り切りつつ、それでもせめて声が聞きたいと女々しく思い、それも叶わないのなら彼女の頭上にあるのと同じ星でも眺めようと考えたのに、夜空は雲に覆われてしまっている。
散々な気持ちを宥めるように人工の光を見つめていると、マンションの下の方で不自然に揺れる光源を見つけた。何だか気になって目を凝らし、次の瞬間には驚きで息を呑む。
手許で鳴ったスマートフォンの画面に浮かぶのは、「帰ってきちゃった」の文字列。
嬉しそうに跳ねる星のような光を二度見した彼は、慌てて身を翻した。




