転生者を炙り出す呪文
目が覚めたら赤ん坊になっていた。
驚いたことに、どうやら俺は転生したらしい。
前世の俺は社会人だった。
まだ若かったと思うが、死んだのか何があったのかすら全く覚えてない。
いや、前世のことはもういい。考えても仕方ないしな。
気持ちを切り替えて今世だ。
俺が新しく産まれたこの世界にはなんと魔法がある。魔石という魔力を貯める石を使って、水を出したりコンロの火をつけるらしい。
トイレも水洗だし、一般の平民でも生活レベルはなかなか良い。
魔法といえばチート!と意気込んだのも束の間。
個人の魔力量は産まれた時に固定されているらしく、俺は庶民の大多数である「魔石を扱う生活には困らないが魔法は使えない」レベルだった。
残念。でもいいんだ、魔法が実際にあるってだけでワクワクが止まらないんだ。
歩けるようになって、洗面台で魔石から水を出すのが楽しくてさ。
石に手をかざすと水が出るんだよ。凄くね?
でも何度も繰り返してたら「ビシャビシャにしちゃダメでしょ!」って親に怒られた。
完全に都会を初めて見た田舎者ムーブしてたわ。
母ちゃんごめん。
反省してそれからは魔石使うたびに「ファンタジーってすげー!」って心の中で感動するだけにしてる。
でもすくすくと成長するにつれて、違和感に気付いた。
日本と同じ物が多すぎるんだ。
ん?と思ったのは、まず食事。
米があり、ハンバーグがあり、ピザがある。
ケーキやらもあるが、一番おかしいのが和菓子だ。
いちご大福、団子、たい焼き……。
米も怪しいと思ったが、和菓子で確信した。
ここは西洋風の世界だぞ。世界観考えろ。
絶対他にも日本人転生してるじゃん。
まあ美味いものが食べられるのはめちゃくちゃ嬉しいけどな。カツ丼最高。
なんだ?先に転生した奴は料理人だったのか?良い仕事してるぜ。
レシピ無双は転生チートの基本だよな!わかるわかる。
転生者が俺だけじゃないってのは正直ちょっと複雑ではある。
でもそのおかげでこんな美味い飯が食えるんだから、むしろ先に転生してくれたことに感謝しないとな!
他にもちょいちょい「これ転生者だろ」案件を経験しつつ迎えた十歳。
この国、というかこの世界では、十歳の子どもだけで集まるイベントがあるらしい。
王都から文官がやってきて、ありがたい言葉を聞くんだそうな。
ふーん、楽しくなさそう。
とか思いつつ迎えたイベント当日。
男子と女子に分けられ、それぞれ別の部屋で待機するよう言われ、待つ。
少し経つと文官の男が現れ、よく通るイケボで挨拶を終えたあと、続けて言った。
『あなたは日本人ですか?』
「……は?」
いきなり聞こえてきた「日本語」に反応が遅れ、ポカンとアホ面を晒してしまう。
なんで……!?
「え、なんて言ったの?」
「しらねー」
「外国語?」
周りがざわざわと騒ぎ出し、はっとする。
そうか。俺しかあの言葉の意味はわからないんだ。
これは……どうするべきか。
はい日本人ですと素直に名乗り出ていいのか?
どちらが正解かわからず様子見していると、子ども達が静まった頃に文官がまたとんでもないことを言った。
『あなたは胸派ですか?尻派ですか?』
思わず吹き出してしまった。
こんなところで何を言ってるんだアイツは!!
俺は一人で焦りまくって、文官がこちらを見て一つ頷いたことも見ていなかった。
周りの不思議そうな顔を見て、罠にかかったことを察した時には時すでに遅し。
…………。
日がとっぷり暮れた頃。
俺はトボトボと家に向かって歩いていた。
ひどい目にあった……。
あの文官、俺だけ別室に居残りさせて前世の人生を全部喋らせやがった。
しかもメモを取りながら重箱の隅をつつくみたいに細かく説明させやがって。
そんな小さいこと覚えてねえよ。
しがない会社員はなあ、道具は使えても作り方や仕組みまでは知らねえんだよ……。
文官が言ってた話によるとこの世界、転生者はまあまあ多いらしい。
昔、成り上がろうとした転生者がどっかの国を滅ぼしたとかで、それから各国は特別な呪文を使い転生者を炙り出すようになったんだと。
誰だよあんな呪文教えたやつ。
転生者はそれぞれそれなりの仕事を与えたり知識を提供させたり、有益な者は国のために働くらしい。
で、俺はというと……。
「帰っていいですよ」
だとよ。
いいんだ。俺には専門知識も発想力もないってよくわかった。
庶民として気楽に生きるさ。
でもよ、文官。
メモしてた紙に「無能」て書いたの見えたからな。
なんか腹立つ!
国に使われるのも嫌だけど!無能も腹立つ!
はあ……。
あ、そういや呪文を提供して転生者の炙り出しに成功すれば金一封貰えるらしい。
小遣い稼ぎに狙ってみるか。
……。
………。
…………何にも思いつかねえ
悔しい。悔しいから思いついたら絶対提供する。
俺みたいに転生者が思わず吹き出すような呪文を思いついてやる!
俺は新たな目標を胸に、ドアを開けて「ただいま!」と叫んだ。
ヤサイマシマシニンニクマシマシアブラカラメ
という呪文を見て思いついた話。




